パラレル飛躯二次創作A

□黒猫
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 黒猫を拾った。
 黒い髪、浅黒い肌、大きな吊り目、小さな鼻と口のオスの黒猫。
 夜、仕事から帰ってきて、マンションの前で偶然見つけた。黒猫は体のあちこちに怪我をして動けないらしく、壁にもたれぐったりと座り込んでいた。
 体が小さいからまだ子猫かと思ったけど、よく見るとそうでもないようで。もちろん見るからにとても若いのだけれど、少なくとも子供ではない。
 俺が声をかけると辛そうにゆっくり目を開けて俺の顔を見て、すぐに大きな鋭い目で無言で睨まれた。捨て猫のくせに、ニャーニャー鳴くことも全くなく、少しも可愛げのない無愛想な黒猫。手を触れると噛みつきそうな剣幕だったけど、疲労と怪我と空腹で猫自身にそんな体力は残ってなかった。むしろ今にも気を失ってしまいそうなくらい衰弱している。
 傷ついて雨に打たれていた惨めな黒猫。ついほっておけなくて部屋に連れて帰った。

 黒猫には名前がない。
 もちろん本当にないはずはないのだけど、強情なほど無口なその猫は名乗ってくれない。
 仕方ないからただ「黒猫」と呼ぶ。呼んでも返事が返ってくることはない。こちらを軽く一瞥して、それでおしまい。それに大抵は部屋の隅っこで背中を丸め、死んだように眠っている。あんまり静かなので、ときどき本当に死んでないか心配になってしまう。
「家はどこだ?」
 尋ねてもなにも答えない。
「学校行ってるのか?それとも働いてるのか?連絡先は?」
 またしても返事はない。
 所持品はひとつもなく、完全な一文無し。そもそも財布さえ持ってない。
 傷ついて動けなくて、ムスッとした顔でふさぎこんだまま、行くところもないように見える。俺の作る食事をとても美味しそうに食べるし、俺の部屋はひとりで暮らすには余る広さだ。仕方ないからしばらく置いてやることにした。
 おとなしい黒猫は邪魔になることは決してない。寡黙な俺達ふたりの間にロクな会話はないけれど、沈黙を気詰まりと感じることもない。最初に数着の服を与えたが、あとはたまにエサをやるだけでいい。それ以上、なにも手はかからない。それにその黒猫は一緒にいて不思議と心地良い。
 いつの間にか俺達はずっと前から一緒に暮らしていたように自然に同居している。
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