パラレル飛躯二次創作A

□ひまわりベーカリー
1ページ/36ページ

 ある晴れた秋の昼下がり、東京のとある下町のローカル線駅前にひっそりと立つ、垢抜けない地味なパン屋の看板を見上げると、躯はがっかりしたようにため息をついた。
「名前もダサければ店構えもダサい・・・。」
 明るい黄と茶の二色で店全体が彩られたその小さなパン屋「ひまわりベーカリー」は、およそ現代的とも洗練されているともとても言えない、昔ながらの雰囲気をもつありふれた町のパン屋だった。店の前では近所の元気なおばあちゃん達が、いつ終わるとも知れないとりとめのない世間話に賑やかに興じていた。
 パッとしない手作り風の看板には、味があると言えばいいのかヘタクソと言えばいいのか判断に苦しむ、丸みを帯びた崩れた字体で店名が記され、これまたヘタウマなひまわりのイラストが添えられていた。おそらく町のパン屋にふさわしい明るく親しみやすい雰囲気を演出しようとしているのだろうが、今の彼女にはそれがかえって寒々しく感じられた。
 小さく古い駅の改札口から出るとすぐ目に入る店の正面は、全面ピカピカのガラス張りになっていて、ガラス越しに設置された4段の棚にずらりと並べられた美味しそうなパン達が、色とりどりにまるで競い合いようにして、前を通り過ぎる急ぎ足の通行人達の気を引こうとしている。もちろん見ようによっては、外の穏やかな陽射しを浴びて仲良くのんびりと日光浴を楽しんでいるだけのようにも見えた。実際は一体どちらなんだだろうかと、くだらないことを躯は外からパンを眺めてぼんやりと考えていた。
 食パン、フランスパン、あんパン、メロンパンといった定番商品から、ベーコンやごぼう等のたっぷり使われた惣菜パン、りんごやプリンが丸ごと入った贅沢な菓子パンやケーキまで、その品揃えは素晴らしくバラエティに富んでいた。しかしウィンドーの張り紙によると、中でも何の変哲もないごくごく普通のあんパンが、この店の名物で一番人気らしかった。なんだかそれもまたこの店らしい感じだ。
 どうせ働くならもっとお洒落なとこが良かった、と躯は正直なところいささか残念に思ったのだが、なにしろ近くて楽そうで、今の自分の状況にはもってこいだと思ったのだから、仕方ない。
 彼女はまだ27歳と若く、爽やかなショートヘアがよく似合う、誰もが振り向くくらいの美人だった。しかし今日の彼女は見事にノーメイクで目の下のクマが目立ち、顔色もどんよりと冴えない。おまけにシンプルなシャツにデニム、スニーカーの、少しも気合の入っていない適当すぎるくらいの格好で、案外下手にスマートな店よりも、こういう気取りのない昔ながらの店のほうがしっくりくるような気もしないではなかった。
「・・・とにかく頑張るしかないしな。」
 そう自分に言い聞かせるようにつぶやくと、
躯はこれからバイトの面接を受けるそのダサいパン屋、「ひまわりベーカリー」に一歩、足を踏み入れた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ