パラレル飛躯二次創作A
□SLEEPING BEAUTY
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・・・もう23年も前の遠い昔のこと。
「なぁ、おふくろ。明日の俺の7歳の誕生日は、めちゃくちゃデカいケーキ作っといてくれよ。誰も見たことがないような、びっくりするほどデカいやつを。」
外で丸一日遊んだ後の泥だらけになった顔で、ボーイッシュなショートヘアに小柄な体つきの美しい少女がねだると、実際の年齢より子供っぽく見える外見の彼女の母親は、ため息をついて人差し指を振りかざしながら娘を諭した。
「駄目よ。そんな大きなケーキ食べたら、虫歯になっちゃうわ。甘いものは少しだけって、いつも言ってるでしょ。」
「俺ひとりで食べるんじゃない、城中みんなで分けて食べるんだ。」
「・・・あら、そう。ならいいけど。でもね、そんな泥んこの汚い顔の女の子にケーキを作るのはコックだって嫌がりますよ。」
「明日はちゃんとおとなしくして、顔も髪もきれいにするよ。な、それでいいだろ?」
「本当かしら。あなたときたら、朝から晩まで外で走り回ってない日は一日だってないじゃないの。たまにはお部屋で女の子らしくお人形遊びでもしたらどう?そうねぇ、ちゃんとお勉強をしてご本も読むんだったら、考えてあげてもいいわ。」
「お人形遊びなんて退屈だよ。おふくろがこないだ買って来た問題集はもう全部終わった。本も2冊ともすっかり読んだ。」
「えっ、もう?だって問題集も本も3日前に買って来たばかりなのよ?」
「だっておふくろの買ってくるのってどれも簡単すぎなんだもん。掛け算も割り算も何度もやらされて、とっくに飽きた。本だって子供向けのばっかりだしさ。」
「白雪姫もねむり姫もとっても素敵だったでしょう。大切に何度も繰り返し読んでね。」
「つまんないよ、あんなお姫様と王子様の話。俺はもっと冒険物とか、勇ましくてワクワクするのがいい。白雪姫もねむり姫も一回読んでうんざりしたから、すぐに近所の子にあげちゃった。」
「まぁ、なんてこと!!ああ、もう、頭に来たわ。こんな悪い子に誕生日ケーキなんて絶対あげないから!」
「え〜っ!!頼むよ、おふくろ!!」
「おふくろじゃないでしょ、ママって呼びなさい!それにその男の子みたいな言葉遣いも、みっともないからやめなさい!女の子なのに『俺』だなんて信じられない、ママは恥ずかしいわ!!」
「無理だよ。あ〜あ、なんで俺、男に生まれなかったんだろう。女の子なんてくだらないよ。損なことばかりだ。」
「まったくどうしようもない子ね。じゃ、せめて『おやすみなさい、ママ』と言ってから、今夜は寝なさい。仕方ないから、それで許してあげるわ。」
「わかった。おやすみなさい、ママ。一生のお願いだから、明日はでっかいケーキ頼むよ。」
「はいはい、おやすみなさい。」
・・・そして翌朝、少女の誕生日当日の朝。
「いつまで寝てるの、今日はあなたの誕生日よ、早く起きなさい!」
珍しく朝寝坊をしていた少女の部屋に入ってきた母親は、お姫様のような天蓋つきの豪華なベッドにもぐりこんで眠っている少女の体を、声をかけながら揺さぶって起こそうとした。
「さぁ、昨日約束した大きなケーキも、ちょうど焼き上がったところよ。美味しそうなイチゴがたくさんのった、とっても可愛いケーキなの。ほら、早く起きて、さっそく見に来なさい・・・。」
いつまでも少女が返事をしないので、母親はイライラと手を伸ばし、スヤスヤとあどけない寝顔で熟睡している娘の、まだ小さく柔らかな頬にそっと触れた。
「もう、一体どうしたの?いつもは私よりずっと早く起きて、まっしぐらに外に飛び出して行くのに・・・。ねぇ、ほら、返事しなさい!」
母親がいくら大きな声を張り上げて乱暴に揺すっても、少女は天使の寝顔で眠り込んだまま、身じろぎひとつしなかった。母親は普段と違う娘の様子に戸惑って、少女の夢見るような安らかな寝顔をまじまじと見つめた。事の深刻さにやっと気付き青ざめた母親は、耳をつんざくような鋭い金切り声を上げて失神し、そのまま娘のベッド脇の床にバタリと大きな音を立てて倒れ込んだ。