パラレル飛躯二次創作A
□骨
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黒。
特別な色。
ひたすらに深い色。
どこまでも純粋な色。
残酷なほど頑なに、他を一切寄せ付けない、受け入れない。
その強すぎる力はすべてを覆い尽くし、いつしか自らさえも傷つけ、滅ぼしていく。
並ぶ者のない権力に酔いしれ、誇り高く、孤独を愛する。
彼は世界を支配する、否定する、拒絶する、絶望する。
ある黒の絵。
一見すっかり完成され尽くしているようでいて、よく見るとどこか奇妙に不完全さを漂わせている。
陰気な黒一色で全面を潔く塗りつぶされた大きな油絵が、いくつもいくつも続いていた。
底なしのブラックホール。
その真空の奥底に容赦なく引きずり込んでいくような、おびただしい数の黒の絵。
よそよそしい白の壁にズラリと並んで掛けられた絵画達は、ひとつ残らずあの異様な世界を、この世ならぬ無限の黒の世界を体現していた。
見る者を圧倒する、恐ろしい地獄の光景。
ピンと張り詰めた空気が周囲に漂い、涙の滲む痛みを伴って鋭く肌に食い込んでいく。
異次元の夢、黒の魔力。
幻に取り憑かれた女神が、無我夢中で絵筆を執る。
彼女の精神はまさしく黒一色、呪われた力によって支配されていた。
恐れながら、魅入られながら、怯えながら。
恍惚に震える魂はそのときすべてを忘れている。
彼女は捕われの身。
ある夜、全身を黒装束に包み込んだ魔女が、その長く不恰好に曲がった爪で、彼女の柔らかな皮膚をツゥと、つまびくように引っ掻いた。
みるまに滲み出た赤い血。
透けるように白い肌を、じんわりと筋を描いてまだらに染めていく。
ほとばしる真っ赤な血もいつかは黒に変わり、あらゆるものは黒に帰る。
毒のささやき。
血の匂い。
死の予感。
日の当たらない場所。
シンと寂しい暗闇の中。
誰もいない地下に光はなく、音もなく、邪悪の蠢く気配だけがうっすら感じられて。
醜い蛆虫の這いずり廻る体を、冷たい床にまっすぐそっと横たえる。
甘く優しい、血の凍りつくような悪魔の微笑。
心は恐怖に震え、体は熱を帯びた。
本能の狂喜にさらされて、罠に落ちる。
黒。
限りなく清浄。
弱者に優しく。
忘却の色。
すべては黒に生まれ、黒に終わる。