パラレル飛躯二次創作A
□邪眼師 前編
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・・・「私を探して。」
聞く者の心をかき乱す、悲痛な叫びで発せられるその言葉。
耳の奥でまるでこだまのように、繰り返し繰り返し終わることなく響き続けている。
当然、女性の声なのだろうと思う。しかもおそらくまだ若い女性。はっきりと聞こえるわけではないのだが、どこか大人になりきれていない、子供っぽいその声。
だがそれ以上のことは少しもわからない。この言葉を自分に向け投げかけたのは、一体誰なのか。どんな名前の、どのような外見をした、自分とどのような関係にある女性なのか。
俺にはわからない。残念だが、本当にちっともわからない。手がかりもない。
それどころか・・・。
俺は自分が誰なのか知らない。
自分のことなのに、と確かに俺も思う。まだ生まれていくらもたたない小さな子供ですら、自分の名前や自分の親の顔くらいは知っている。
だけど俺は知らない。どういうわけか記憶がない。永遠に覚めないような気がした途方もなく深い眠りから目覚めたとき、なぜか俺はここにいた。もちろん生きている、だが記憶がないまま生きているというのは、どうも生きている実感にいまいち乏しい感じがする。なんだか不思議なくらい虚しい。虚しくて寂しい。
記憶がない。わからない。知らないことだらけ。
自分の名前はもちろん、自分の容貌も、性格や能力も、立場や住所も、自分にどういう家族がいるのか、もしくは家族が存在するのか、他に親しい人はいるのか。
なにも知らない。
ただし性別が男だということだけはわかっている。・・・それはちょっと顔を下向ければ、誰にでもすぐにわかることだ。あるべき物がちゃんとそこにあった。
俺は裸で、ガランとした無人の手術室のような場所の、ひんやり冷たい手術台らしきものの上にたったひとりで横たわっていた。おそらくここは実際に手術室で、俺はついさっきなんらかの手術を受けたところではないかと思われるのだが、周りには医者も看護士もいない上になんと手術に必要な機械や器具の類もすべて撤去されていて、俺にはさっぱり状況が把握できない。
一体、俺は何者なのだろう。
ここはどこなのだろう。