パラレル飛躯二次創作

□ブラック・ロック・モード
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 子供の頃からボーイッシュで、あんまり女にもてるから多分俺はレズなんだろうと思って、昔しつこく言い寄ってきた美人と付き合ってみたことがある。付き合って2日目にキスをして、ああ違ったとわかってすぐ別れた。思えばそれが俺が初めて付き合った相手で、初めてのキスだった。
 それから光也と付き合うようになった。俺は案外男にもモテる。光也は背が高くハンサムで、優しいし知的だしユーモアもあるしで言うことがない。ライブでギターを弾くあいつの姿はいつも格好が良かった。あいつの作る曲も好きだ。音楽の話が合うのはもちろん、ファッションセンスもいい。ショッピングも一緒に行くし、服を貸し借りすることも多い。
 光也に言われるまますぐ一緒に住むようになり、もう10年になる。もともとは大学の同級生で光也がまだ無名のときに付き合い始めたのだが、すぐにバンドは人気が出て、光也はスターダムにのし上がった。今や知らない者はいない国民的ロックバンドだ。あんなに有名になっても光也は変わらず俺に優しい。無茶苦茶モテるのに他の女には目もくれない。喧嘩なんて一度もしたことがない。大抵のことは意見が一致するし、たとえ合わないときがあっても光也はいつも俺に譲ってくれる。仕事で悩むことがあればいつまでも話を聞いてくれる。どんなに忙しくても記念日も忘れたことがないし、必ず俺の為に時間を割いてくれる。光也は本当にこれ以上ないくらい俺を大事にしてくれている。俺は幸せ者だと言わざるを得ないだろう。
 結婚しようと何度も言われているが、俺は結婚願望は全くなかった。仕事も充実しているし、今のままで十分じゃないか。いちいち結婚なんて面倒くさいことをする気にはなれなかった。光也と結婚するのが嫌なわけじゃない。ただ結婚したいとは思わないだけだ。




「だってあの人、だいぶ変人じゃない?」
 その女は甲高い声で言い放った。名前は・・・忘れた。確か最初に「か」がついたような気がする。まぁどうでもいい。とにかくこいつも「えでぃたー」らしい。真っ赤なスーツを着て金髪に近い色に髪を染めた厚化粧のケバい女だ。香水のムッとする香りが立ち込めて、息を止めたくなる。顔は美人の部類に一応入るのかもしれないが、俺はこんな女吐き気がする。
「みんなあの人が美人だとかカリスマだとかファッションセンスがすごいとか言ってちやほやしてるけど、私子供の頃からボーイッシュで、あんまり女にもてるから多分俺はレズなんだろうと思って、昔しつこく言い寄ってきた美人と付き合ってみたことがある。付き合って2日目にキスをして、ああ違ったとわかってすぐ別れた。思えばそれが俺が初めて付き合った相手で、初めてのキスだった。
 それから光也と付き合うようになった。俺は案外男にもモテる。光也は背が高くハンサムで、優しいし知的だしユーモアもあるしで言うことがない。ライブでギターを弾くあいつの姿はいつも格好が良かった。あいつの作る曲も好きだ。音楽の話が合うのはもちろん、ファッションセンスもいい。ショッピングも一緒に行くし、服を貸し借りすることも多い。
 光也に言われるまますぐ一緒に住むようになり、もう10年になる。もともとは大学の同級生で光也がまだ無名のときに付き合い始めたのだが、すぐにバンドは人気が出て、光也はスターダムにのし上がった。今や知らない者はいない国民的ロックバンドだ。はそうは思わないわ。あの人、女性らしさってものがまるでないのよね。自然に反してるわ。なにがアンドロジナス(中性的)よ、バカげてる。無理やり男に見せかけて、気持ち悪いったらありゃしない。」
 コーヒーをすすりながら、その派手な女はあいつの悪口をしゃべり続けた。言っておくが俺はこの女の茶飲み友達ではない。この女が俺の席に無理やり押しかけてきてしゃべり倒してるだけだ。俺はこいつにもこいつのくだらない話にもうんざりしていたが、一応上司ではあるし、あいつの悪口を聞くのはまんざらではなかった。
 実際ここの連中はみなあいつのことを持ち上げてばかりでどうかしてる。そんなだからあいつも天狗になってあんな強烈な性格になってしまったんだ。今朝出勤した時もあいつが女どもに囲まれてるのを見かけたが、女どもがみなうっとりしていて胸クソ悪くなった。黒のライダースジャケットを羽織り、あいつはいつにもまして男前だった。そんなに王子様気取りたかったら宝塚行け。あの様子じゃあいつ案外女が好きなんだな。道理であんな格好してるわけだ。
「毎日のようにあの人の写真を撮りにカメラマンが来るのよ。あの人の私服スナップだとかポートレートだとか・・・そのうち写真集でも出すんじゃないかしら。モデルでも芸能人でもないくせにセレブ気分でいやらしいわよね。」
 それは初耳でさすがに驚いた。
「そうなのか?」
「そうよ、今度あの人の写真が出てる雑誌見せてあげるわ。いっぱい出てるのよ。海外の雑誌にも出てるんですって。何様よね。」
 俺もそれは同意した。あんな頭のおかしい奴にどうしてそう人気があるのか。
「ところで今晩空いてない?飲みに連れてってよ。」
 ・・・マジかよ。道理でさっきからおかしな目で見てくるわけだ。物好きな女だな。
 俺はうまく言い訳をつけて退散した。

 翌日バイトに出ると会社の前で実際躯が写真に撮られている最中に出くわした。ポーズをとり表情を決めているあいつを俺は冷ややかな目で見た。・・・くだらない。実にくだらない。前から頭のネジがゆるんだ野郎だとは思っていたが、まさかここまでだったとは。思い上がるのもいい加減にしろ。そんな着せ替え人形になって何が楽しいんだか、俺にはさっぱりだ。
 早足で通り過ぎようとしたのだが呼び止められた。
「おい待てよ飛影、上司に挨拶もなしでご出勤か?」
 仕方なく俺は向き直った。
「邪魔しちゃ悪いだろ。」
「いやいいんだ、ちょうど終わるとこだったし。」
 俺達は並んで歩いた。奴は俺の目をなぜだか不安そうに覗き込んだ。
「お前さっきさ・・・なんか冷たい目で俺を見てなかったか。」
「いや別に。」
「くだらない奴とか思ってたんじゃないのか。」
 否定はできないので黙った。
「お前昨日加藤と話してたろ。」
 加藤・・・ああ、そういえばそんな名前だったかもしれない、あの厚化粧のケバ女。
「俺昔からあいつに嫌われててさ・・・まぁこっちも好きじゃないけどな。どうせあいつお前に俺の悪口たっぷり吹き込んだんだろ?俺はあいつに何言われても気にしないけどさ。どうせやっかんでるだけだし。」
「・・・お前は」
「何だ。」
「そうやって写真撮られて雑誌に載って、なんてことが楽しくてやってるのか?」
 躯は言葉に詰まったようだった。
「・・・それも今は俺の仕事の一部だ。」
「質問に答えてないな。どうなんだ。」
 消えいりそうな声で答えた。
「・・・わからない。」

 俺が躯と別れて出勤すると早速加藤が出迎えた。逃げたいのはやまやまだったが、なにしろ押しの強い女で太刀打ちできなかった。
「約束通り持ってきたわよ、あの人が載ってる雑誌。見て、これなんて酷いじゃない?」
 正直気になったので指されたページを覗き込んだ。それは・・・俺の想像を越えていた。雑誌に載るといっても、小さな写真が隅っこに載る程度だと思ってたんだ俺は。なのにそれはあの野郎の特集ページだった。しかも1ページではなく、数ページにわたっていた。
 あいつの日替わりの全身写真が無数に並び、その下には奴が着ている服の解説が書かれていた。顔がアップで撮られている写真もいくつかあった。まさかここまでだったとは。俺は男だし全く知らなかったが、あの野郎は確かに結構な有名人らしかった。頭がくらくらしてきた。偶然ページの最後に載っていた小さな写真に俺の目は吸い寄せられた。
 その写真には「世紀の美男美女カップル」というどうにも頭の悪いタイトルがつけられていた。奴はいつものように黒尽くめの男装ですまして立っていた。その隣にストールにサングラスという今風のなりの背の高い男がいた。整った顔立ちで写真に撮られ慣れている感じだ。確かに似合いのふたりと言えた。俺はその男に見覚えがあった・・・。
「あ、その写真?もちろん彼は知ってるわよね?ファビュラスの光也よ!彼最高に素敵なのに、女の趣味が最悪よね!!絶対すぐ別れるわ、賭けてもいいわよ!!」
 加藤はしゃべくり倒し続けたが、俺の頭にはまったく響かなくなっていた。俺は穴があくほどその写真を見つめ続けていた。




 その日の夜、俺が部屋で憂鬱な気分に浸っていると、戸を叩く音がした。俺の住むボロアパートにはインターホンどころかベルさえない。出てみると躯がいた。奴はぐでんぐでんに酔っ払っているのがひと目でわかった。目が死んでいる。
「今日は気分が良くないんだ。帰ってくれ。お前の御守はまっぴらだ。」
 俺は即座にドアを閉めようとしたが、あの野郎ドアの隙間に足を突っ込んできやがった!
「そうはいくかよ。俺はお前と話したいんだ。」
 奴は気味の悪いしたり顔でにやりと笑った。
 そんなわけで俺はまた奴を部屋に入れる羽目になってしまった。奴はだらしなく俺のベッドにぶっ倒れ、情けない有様だった。躯のほのかに血色を増した白い肌と虚ろな目を横目で見ながら俺は舌打ちした。
「俺は酒癖の悪い女は嫌いだ。」
 奴はふんと鼻を鳴らした。
「お前はそもそもどんな女も嫌いだろうが。」
「まぁ、そうだな。」
 奴は表情のない目でぼうっと天井を眺めていた。
「・・・なのに何だよあれは。加藤と何話してた。」
「何のことだ。」
「お前、今日加藤とくっついてえらく話し込んでたじゃないか。いつからお前らそんな関係になったんだよ。お前あんな女が趣味なのかよ。さぞかし俺の悪口で盛り上がってたんだろうな、え!?」
「・・・これだから酔っ払いは嫌いだ。」
「おい、質問に答えろよ。」
「あの派手女とはまったく親しくない。むしろ俺はあんな女、いちばん苦手だ。確かにあの女は俺の席に来てしゃべくり倒していたが、俺はそこから逃げられなかっただけで、話し込んでたわけじゃない。」
「何であんな体くっつけて話してた。」
「知るか。俺はぼんやりしてて意識がなかったし、あの女は気持ち悪い女で俺には理解不能だ。」
 躯はまだ俺を睨んでいた。
「お前、そんなこと言いにわざわざ来たのか。」
「いや、そういうわけじゃない・・・。」
「気が済んだらさっさと帰ってくれないか。迷惑だ。」
 俺がそう言うと躯は少し寂しそうな顔をしたが、俺は容赦しなかった。一刻も早く帰って欲しかった。
「酔っ払いの御守はハンサムな彼氏にしてもらえ。お前も一応女だったら酔って男の部屋なんて来るな。」
 躯はぼんやりと焦点の定まらない目で俺を見た。
「・・・光也は今ツアー中だ。当分戻らない。」
「だったらいいのか!?お前最低だな。」
「・・・そういうんじゃない。だいたい何だよ、お前は女嫌いだし、俺のこと男と思ってんだろ。何も問題ないじゃないか・・・。」
「そりゃそうだが、それでも守らなきゃいけないものはあるだろ。」
「お堅いな。」
「ああ。」
 ちょっと気まずくなってきた。
「もう、帰れよ。」
「ん。」
 奴はのろのろと立ち上がり、ふらふらした足取りで出て行った。
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