パラレル飛躯二次創作

□手紙
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「11月20日
 躯へ
 お前を怒らすと怖いので、なるべく急いで返事を書いた。それにこれから漢字もなるべく書くことにする。お前にガキ扱いされるのも悔しいからな。言っておくが俺は漢字が書けないわけじゃない、そんな馬鹿じゃない。ただ面倒だっただけだ。
 面倒と言えばこんな風に手紙を書くのも面倒で仕方ない。電話嫌いなのは確かにお前の言う通りだ。だったらせめて葉書はどうだ。できれば絵葉書がいい。それなら一行書いて宛先書いて終わりだ。なんなら宛先だけでもいいかもしれん。ようするに元気でやっていることが分かればいいんだろう?
 というよりそもそも、俺がお前に連絡をとる必要なんてあるのか?ただの幼馴染じゃないか。昔から隣にたまたま住んでたってだけだ。それでお前は俺よりふたつ年上で、俺より体も大きくて、いつも俺をいじめてたってだけのことだ。まぁそれは今でも変わらないな。お前は今でも俺よりふたつ年上で、俺より2センチ背が高くて、相変わらず俺をいたぶって楽しんでいる。お前の身長を越せなかったのは俺の人生最大の不幸だ。ああわかってる、お前がデカいわけじゃない、俺が男にしちゃ小さすぎるんだ。まぁでももし俺の背がお前より多少なりとも高くなっていたら、今とは状況が違っていたと思うんだ。うまく言えんが、今みたいにお前の子分扱いされることは少なくともなかったんじゃないか。いやそれでも変わらなかったか?
 俺はお前の手紙を読んで、東京を離れることができて良かったこともあるなと思った。ひとつにはお前の映画に付き合わされなくて済む。あれは退屈で仕方ない。もうひとつはお前のことババくさいなんて言ってしまったにも関わらず、お前に殴られなくて済んだことだ。隣にいたらタダでは済まなかっただろう。そう思うと恐ろしくてますます東京に帰ることはなさそうだ。
 ああ、随分長い手紙を書いた。漢字をたくさん書くのも面倒だったが、やってみれば案外出来るもんだ。だいぶ読みやすくなったんじゃないか。上司のことはもう少し考えてみる。俺と違ってお前は要領がいいから、あんな上司とでもうまくやっていくんだろうな。
 じゃあな。元気でな。
                                                           飛影 」

「11月22日
 飛影へ
 長い手紙、ありがとう。とても嬉しかったです。文章も漢字が増えて、ちゃんと大人らしくなったと思います。
 葉書は駄目です。絵葉書はもっと駄目です。私は手紙が欲しいのです。わかってくれますね?
 私はあなたをいたぶっているつもりはありません。だけどあなたがあんまりいい加減で、頼りなくて、いつまでも子供っぽいのでつい口を出してしまうのです。ババくさいとか母親気取りとか言われても仕方ないかもしれません。でもわかってほしいのです。私だってこうしたくてしてるわけじゃないんです。ただあなたを見てると歯がゆくて、ついイライラしてしまうのです。
 あなたの身長のことは私はまったく気にしていません。確かに私より2センチ低いけど、昔はもっとずっとあなたのが小さかったから、それに比べたらはるかにマシです。昔は本当に私の後をついてくる子猫のようでした。私のほうこそあなたより背が伸びてしまって残念に思っています。ただ身長なんてつまらないことで、大事なのは中身でしょう?あなたが早く大人の男らしくなってくれたらいいのに。もう23だなんてとても信じられません。
 上司さんとうまくいくようになればいいですね。またその後のこと報告してください。
 映画に無理に付き合えなんてもう言いません。私は短気だけど、殴ったりももうしません。だからたまの休みくらい東京に戻ってきてください。それに私はあなたが思ってるほど実は短気でもありません。とても我慢強いし気が長いところもあるんです。あなたにはどうせわからないでしょうけど。
 手紙はとても嬉しいけれど、あなたに会えないのが思ってた以上に寂しいです。あなたと離れるのは初めてのことですが、ここまで寂しくなるなんて思ってませんでした。私に連絡する必要ないなんて、どうして言えるんでしょう?とても悲しい気持ちになりました。もしすぐ来るのが難しいならせめて電話をください。
 寒くなってきました。体に気をつけてください。暖かい格好をして、無理はしないように。
                                                            躯 」

「12月2日
 躯へ
 本当にもうすっかり冬だな。みな元気にしているか。
 今日はお前に報告することがある。最近やっと上司とうまくいくようになってきた。確かにいい加減な男だし酒グセも悪いが、それ以外はそう悪い奴でもないようだ。ただ最近発見したのだが、奴はデスクに酒瓶を何本も隠している。時々こっそり飲んでやがるんだ。道理でたまにおかしい時があるわけだ。そこは直して欲しいと思っている。
 そんなわけで上司とうまくいくようになったのはいいのだが、困ったこともある。どうも気に入られてしまったらしく、最近は平日の仕事帰りだけでなく休日まで飲みに連れてかれることだ。これには全く閉口している。奴は最近キャバクラにハマっている。俺はこういうところは今まで全く縁がなかったからどうにも居心地が悪い。奴曰く、
「単身赴任で嫁とも離れてるし、こういうとこで寂しさを紛らわすしかない」
とかなんとか。どうにも言い訳くさい。ケバい女がいっぱいで俺はうんざりしてる。実はキャバクラ以外にも誘われてるが、そちらは断固拒否している。俺の主義ではない。なんでそういうとこに連れ立って行こうとするのかさっぱりわからん。ひとりで行け。
 そんなわけで苦労もあるがなかなかうまくやっている。上司とうまくやれるようになったのはお前のおかげだ。礼を言う。
 なんでお前が寂しいとか言い出すのかわからん。お前は友人も多いし家族だって一緒だろうが。俺が言うならまだわかるんだが。俺は友人なんてほとんどいないしここにはバカ上司くらいしか知り合いもいないしな。
まぁ何にしろ俺は寂しいなんて思わない性格だ。つくづく俺達は対照的だ。
 俺はひとり暮らしにもすっかり慣れてきた。慣れると案外いいものだ。お前や家族にうるさく言われなくて済むから、のびのび暮らしている。なにしろ自由で最高だ。俺は一生ひとり暮らしをしようと決めた。そう思うと転勤の多いこの会社もそう悪くないかもしれん。
 ああそうだ、お前もそろそろ彼氏のひとりでも作ったらどうだ。お前は面はいいしもてるんだから、上手く騙せば簡単だろう。その恐ろしい性格を隠すことくらい、利口なお前なら朝飯前だ。面倒かもしれんがそれが寂しさを忘れるにはいちばんいいだろう。
 これでも俺はお前を心配してるんだ。一応昔馴染みだし俺の親分だからな。
                                                      お前の子分より 」

「12月10日
 わからずやの飛影へ
 私は今とても怒っています。すぐには返事も書けませんでした。あなたの手紙を読んですごく悲しくなりました。
 その上司は酷い人です。うまくやらなきゃいけないなんて言った私が馬鹿でした。まさかそんな人だとは思わなかったのです。そんな上司がいる仕事なんて早くやめたほうがいいと思います。今すぐ会社やめて帰って来て下さい。
 そりゃ仕事に関して言えば、上司とうまくいくほうがいいに決まってます。でもそれ以外では、その上司があなたに悪い影響を与えないかとても心配です。なんでキャバクラなんて行くの?男ってみんなそうなの?あなたはそんな人じゃなかったでしょ?体調が悪いとかなんとでも理由をつけて断りなさい。それ以外のとこなんてもってのほかです。絶対やめてください。お願いです。
 私に恋人作れなんて、余計なお世話です。どうせ私は彼氏いない歴25年です。でもあなただって彼女いない歴23年でしょ?自分はどうなの?
 私を心配してるなんて嘘ばっかり。あなたは自分のことしか考えてないんです。人のことなんて考えないから、人の気持ちがわからないんです。あなたがもしこっちにいたらボコボコにしてやれるのに。今すぐ飛んで行きたいです。再起不能になるまで殴り倒したい気持ちです。
                                                            躯 」

「12月12日
 躯へ
 お前の手紙を読んで驚いてすぐ返事を書いている。一体なんでそんなに怒るんだ。俺がお前に何かしたか?俺はいつでもお前の忠実なしもべだろうが。
 上司がキャバクラ行こうと俺には関係ないことだ。俺はただ酒も飲まず話もせずぼーと座ってるだけなんだから。むしろ大抵は隅で寝ていた。でもお前が怖いのでこれからは断ることにする。しかし上手く断るのは俺は得意でないので、もしかしたらトラブルになるかもしれん。
 そんな簡単に仕事やめろとか言うな。無理言うな。あと頼むからこっちには来ないでくれ。殴らないでくれ。俺はお前が恐ろしい。
 何かお前の気を悪くすることを言ってしまったならすまなかった。
                                                           飛影 」

「12月12日
 躯へ
 お前のこと恐ろしい性格とか書いてしまったことを思い出した。それで怒っているのか?お前はただ短気なだけだ。変な言い方してすまなかった。
 お前はカルシウムが足りていないのではないかと俺は常々思っている。試してみてくれ。
                                                           飛影 」

「12月13日
 飛影へ
 早い返事ありがとう。驚きました。
 ごめんなさい。私が悪かったんです。ショックで動揺してしまって。もっと飛影のことを信用しなければいけませんね。あなたがどういう人か私は誰よりよく知ってるのに。
 私はやっぱり短気みたいです。もう殴らないって言ったばかりなのに、あんな滅茶苦茶なこと言ってしまって。こんなだから女らしくなくて駄目なんですね。
 本当にごめんなさい。キャバクラもう行かないって言ってくれて嬉しかったです。
                                                            躯 」
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