パラレル飛躯二次創作

□お見合い結婚
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「躯、この人なんて素敵じゃない?」
 山と積まれたお見合い写真に次々と目を通し、おふくろがオススメ物件を見せてくる。俺の永久就職活動は至って順調だ。俺の元には見合いの申し込みがまたたく間に殺到した。俺は面がいい、両親のDNAに感謝しなければいけない。
 俺は手渡された写真を見た。えらいハンサムな男だ。俺は典型的二枚目男が大の苦手だ。男は多少変なくらいがいい。
「俺の趣味が変わってることは知ってるだろう。毎日拝む面だ、多少は我慢できるレベルにしてくれ。」
 おふくろは宇宙人でも見るような目で俺を見た。
「ほんとにあなたは変わり者ね。誰に似たのかしら。こんなハンサムな人、私が結婚したいくらいだわ。」
「じゃ、そうしたらどうだ。」
 呆れて頭を振りながらおふくろは次の写真を選び始めた。
「じゃあ、この子はどう?」
 何だよ、「この子」って。そう思って示された写真を見ると、なるほど「この子」だった。ああ、うん、悪くない。大きな目の小男でどことなくあどけない顔立ちもガキっぽいのだが、目つきが非常に悪く明らかにケンカを売っている。どう見ても「お見合いなんてやってられっか。ふざけんな。ぶっ殺すぞ。」と言っている表情だ。指名手配写真じゃあるまいし、変な奴。
「なかなか個性的よね、この子。」
 おふくろはしげしげとそいつの写真を見ながら言った。
「そうだな、面白そうな奴だ。こいつでいいよ。」
 あまりに軽すぎる気持ちで俺は答えた。

 そのガンたれたガキの名は飛影といった。俺よりひとつ年下だ。俺よりだいぶ若く見えたが、まぁいい、ひとつしか違わなくても姉さん女房には違いない。尻に敷くにはそれが肝心だ。
 おふくろの調べたところによると、性格は極端におとなしくて無口すぎるくらい無口だそうだ。おしゃべりすぎる男よりはいいだろう。つまらない奴でないことを祈るばかりだ。俺の言うことに黙って従う人間であれば何でもいいといえばいいのだが。
 奴は大手自動車メーカーの下請け会社の社長の跡取り息子だ。要するに金持ちだ。将来安泰だ。これは正直ポイントが高い。俺はこいつと結婚すれば一生遊んで暮らせるだろう。
 また、おふくろの話によると、大学時代にひとり暮らしをしていたので家事全般器用にこなすそうだ。素晴らしい。俺は家事はからきし無理だ。掃除も洗濯もロクに出来なくて俺の部屋はゴミ屋敷と化している。おふくろが時々救済に来なければとてもじゃないが暮らしていけなかったろう。料理についてはカレーすらまともに作れない。唯一目玉焼きは作れる。ただ、黄身と白身が完全に一体化している。そんな俺と結婚する男だ、家事は人並みに出来なくては困る。
 ああ、こいつは完璧だ。俺にピッタリの男かもしれない。俺ははりきって身支度を整え、見合いのため奴の家に乗り込んだ。

 振袖は窮屈だったし、髪飾りは邪魔くさかった。奴の家は一等地にあるやたら立派な屋敷だった。部屋なんて無駄にたくさんあるし、庭もリビングも信じられないほど広くて豪華だ。俺の家とは大違いだ。俺は玉の輿に乗るんだなぁという実感が涌いてきた。通された和室で慣れない正座をしていると早くも足が痺れてきて、さっさと終わらせたい気持ちでいっぱいだった。
 飛影は・・・想像していたよりさらに小さかった。背も低ければ体も細くて、完全にガキだ。こんな身長でよく生きていられるな。俺が男でこの身長だったら、とっくに世をはかなんでこの世とオサラバしていただろう。まぁいい、チビのほうがいじめやすい。和装でカチコチに緊張している様子はどう見ても七五三で、かなり笑えた。
 奴は本当にひと言も話さない。硬い表情でずっとうつむいて俺のほうを見ることすらしない。
「人見知りが激しくて。」
 奴の母親は困った顔で言い訳した。奴がそんなだからか、その母親は見合いの間中終始浮かない顔をしていた。しかし人見知りにしてもひどすぎる。全く会話も弾まず、しびれを切らしたおふくろがとうとう言った。
「そろそろふたりだけでお話したほうがいいんじゃない?躯、あの素敵な日本庭園を案内して頂いたら?」
 それで俺達は庭に連れ立って出たのだが、奴の無口も仏頂面も相変わらずで、俺をおいてスタスタと速足で先に行ってしまう。
「ちょっと待ってよ。そんなに速く歩かないで。」
 ・・・驚くなかれ、今のは俺の台詞だ。俺は男言葉を封印していた。玉の輿に乗ってお気楽人生を歩む為だ、猫をかぶったほうがいいと判断した。
 奴は振り返ってやっと俺を見た。みるみる顔が赤くなって慌てて目を伏せた。
「すまない。」
 蚊のなくような声でそれだけつぶやいた。奴の声はその時初めて聞いたが、見た目がガキなくせに声は低くて大人びている。
「ちっともお話されないのね。」
 パーフェクトに上品な口調で俺が言うと、奴は素直に答えた。
「初対面の奴と話すのは苦手だ。」
「そう。・・・でも私達、これからずっと一緒に暮らすのよ?」
 俺がにっこり微笑むと、奴は驚いた顔をした。
「俺と結婚してくれるのか?」
「もちろんよ。だからここにいるんじゃない。」
 本音を言えば俺はさっさとカタをつけたかっただけだ。どうせ恋愛じゃないのだから、グダグダやるのは時間の無駄だし面倒だ。かくして俺達の結婚は一瞬にして決まった。バタバタと形だけのありふれた式を挙げ、役所に婚姻届を出し、新婚旅行は海外で豪華に過ごした。帰国後俺達の新生活が早速始まった。
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