美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□漫画家殺人事件 <美男子探偵蔵馬>
2ページ/5ページ

 蔵馬と幽助が居間で談笑していると、刑事桑原が報告書を携えて足早に部屋に入ってきた。
「すべての監視カメラを調べましたが、不審な人物は映っていませんでした。」
「そうですか。これで外部犯の可能性が低くなりましたね。」
「じゃ、あの夜屋敷にいた奴が犯人だっていうのか?俺と飛影と雪菜さんと蛍子か?そんなわけないだろ!冗談じゃない!!」
 幽助が声を荒げると、桑原が冷静な口調で告げた。
「すみませんが幽助さん、席を外してもらえませんか?ちょっと事件に関して蔵馬さんと内密に話したいのです。」
「ああ、わかった。もう勝手にしろ!」
 幽助がすっかり腹を立てて出て行くのを見送って、桑原は声をひそめた。
「蔵馬さん、あの幽助っていう担当がどう考えてもいちばん怪しいと私は睨んでますよ。あまりあの男には首をつっこんでほしくないですね。」
「そう、確かに彼は有力な容疑者ですね。あの日彼は原稿の無心にこの屋敷に泊まり込んでた。」
「度々泊り込みをしていたようですが、いくら担当だからってトガワはロクに連載の仕事をしていなかったのにその必要が果たしてあったのでしょうか。私はなにか怪しい気がしますよ。なにしろトガワに最も強い殺意を抱いていたのは間違いなく彼です。トガワの異常に長い繰り返しの休載を彼は長年責められていて、S社では針のムシロ状態だったと聞いています。それなのにトガワときたら毎日ゲーム三昧、彼が恨むのも当然でしょう。また感情の起伏の激しいトガワによって口汚く罵倒されることは日常茶飯事で、手を上げられたことさえあったようです。彼は短気なようですし、カッとなって衝動的に殺してしまってもおかしくありません。」
「ええ、俺もこの殺しは恨みによる犯行だったと考えています。部屋には荒らされた形跡がなく無くなった物もないですから、窃盗目的とは考えられません。」
「とはいえ、盗みのつもりで侵入したが見つかって何も盗らず逃げ出した、という可能性もありますね・・・。」
「それはそうです。ただ、トガワ氏に抵抗した様子が全くなく熟睡中に殺害されたのは明らかですから、トガワ氏自身に見つかったという可能性はゼロです。聞いたところ彼は大変眠りが深い性質だったそうですね。また、当時屋敷にいた他の方達も、不審な人物は見ていないし目立った物音もなかったと皆証言しています。彼ら3人とも夜は自分の部屋で眠っていて一歩も部屋の外に出ていないそうですね。もちろん幽助だけは自室なんてありませんから、トガワ氏の寝室の隣の客室で寝ていたらしいですが・・・。隣の部屋にいたにも関わらず、彼はあの夜何も物音を聞かなかったと言っています。彼も眠りが深い方ですから仕方ないかもしれませんがね。」
「そうだとすれば、ますます怪しいのは幽助ですよ。隣の部屋なら犯行はより容易でしょう。あの夜屋敷にいた他のメンバー、つまり飛影、雪菜さん、蛍子さんの3人はこの屋敷に来て長いですし、恨みもなければ被害者と目立ったトラブルもなく、動機が見当たりません。遺言書も作られていませんでしたから、彼らに莫大な遺産のうち幾らかいくこともないのです。」
「ええ、そうですね・・・。」
 蔵馬は思案顔でなにかしきりに考え込んでいた。
「動機に関しては確かに桑原君の言う通りです。しかし今の状況では、いちばん怪しいのは料理人の飛影ですよ。」
「えっ、なんであのチビなんですか?」
「彼は布団を剥ぐまでトガワ氏が死んでいることに気付かなかったと言っていましたが、ベッドとその周辺に血が飛び散っているのに気付かないわけがありませんよね。」
「・・・なるほど。う〜ん、幽助だと思ったんだが・・・意外だな、飛影だったか。」
「まだ考える余地はあると思いますよ。彼がトガワ氏を殺してあんな嘘をついたのか、それとも何か別の事情があったのか。ところで桑原君、もうその3人には詳しい事情を聞いたのですか?」
「当然です。ただ3人とも役に立ちそうなことは何も知らないと言っています。雪菜さんに至っては、2日前から具合が悪く、部屋から一歩も出ていないそうです。飛影も雪菜さんも身寄りがなく交友関係もほぼないため、屋敷から外に出ることはほとんどないそうですよ。蛍子さんは秘書ですから、いろいろと所用で外出も多いそうですな。」
「わかりました。現場の部屋はドアも窓も鍵がかかっていなかったので誰でも出入りできますし、本当に手がかりのない事件です。部屋にはトガワ氏本人と関係者全員の指紋があちこちついてましたが、それ以外の指紋は見つかっていないそうですね。せめて凶器さえ出てこれば・・・。」
「ええ、私含め刑事総出でこの屋敷とその周辺の捜索に当たっています。近々見つかるでしょう。」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ