美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□モデル系ホモカップル殺人事件 前編<美男子探偵蔵馬5>
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「でね、飛影。」
 飛影の厳しい言葉にもまったくめげず、蔵馬は子供のように目を輝かせてワクワクと上機嫌で話を続けた。
「すらりとした長身でスタイル抜群、まだ年齢も若くて超美形、溢れる知性、生まれつき備わった上品さ、しかも異性へのアピール力は無限大。もちろんファッションセンスだってバッチリ、洗練された着こなしにもトレンドキャッチ力にも自信があります。ね? 俺ってモデルの条件、完璧に満たしてると思いません? むしろそれ以上? 世界的トップモデルになるべくして生まれた運命の男? いやぁ〜完璧すぎる自分が怖いな。ハッハッハッ。」
 飛影は顔をしかめて、蔵馬に対する非難の言葉を吐き捨てた。
「自分で言うな、ナルシストめ! これは今さら言うことでもないが、お前の最大の欠点はその性格の悪さだ! それがお前に備わっているすべての長所をゼロに、いやマイナスに大きく引き下げてるんだぞ! なにしろお前ときたら、アホな上に意地が悪い、おまけに救いようのない変態だろう! ど変態だ!」
「え、どこが? 飛影、それ誰か俺と名前か顔がよく似た他の人と間違えてません? 俺は性格の良さなら自分の右に出る者はいないと自負していますよ。」
「そんなもの間違えるわけないだろ! お前もいい加減、自分の性格くらい自分で把握しろ! 蔵馬、お前の性格はこの世の誰にも負けないくらい最悪だ!」
「やだなぁ、飛影ったら相変わらず冗談がキツいんだから。それとももしや、どちらかというと頭が弱いあなたはまだ俺の素晴らしさを十分に理解していないのかな? フフン、俺はイエス・キリストのように純真でジェームズ・ボンドみたいにクールな男ですよ。」
「ほざけ!! んなもん聞いたら全世界のクリスチャンとボンドファンが激怒する、いや引っくり返るぞ!! 究極の侮辱だ!! 今すぐ土下座して謝れ!!」
「あ、すみません。俺としたことが、ついうっかりして間違えました・・・。」
 蔵馬はしゅんとした顔をしてうつむいた。
「イエス・キリストより純真でジェームズ・ボンドよりクールな男に訂正します。いけない、いけない。間違えちゃった。テヘ。」
「なにがテヘだ!! 貴様、地獄に落ちろ!!」
「それにしても・・・。」
 蔵馬はひとりで何度もしきりに頷きながら、手元に置いてあった愛用の手鏡を手に持って、うっとりと覗き込んだ。
「う〜ん、なんなんでしょう、この顔。惚れ惚れしちゃうなぁ・・・自分に。俺って本当に素晴らしい。超かっこいい。二枚目。イケメン。まさに伝説になる男。石原裕次郎。」
 蔵馬の意味不明なつぶやきを黙って聞いていた飛影は、だんだん頭痛がしてきたのか自分の額に片手をやってしっかり押さえつけた。
「蔵馬。お前、もしや・・・病気か?」
 実はかなり深刻そうな響きの飛影の問いかけは無視し、蔵馬は握りこぶしを固め、声を張り上げて叫んだ。
「よぉし、俺は本気でトップモデルになるぞ! 頑張れ、蔵馬! ワンダフル、蔵馬!!」
「・・・こんな痛い男、生まれて初めて見た。正直、気持ち悪いし引くな・・・。」
 飛影は辟易した顔で蔵馬を睨みつけた。
「え〜、とにかく。」
 蔵馬はわざとらしく咳払いした。
「俺ほどモデルにふさわしい男は他にいないと思うんです。デビューした途端にパリコレ常連の世界の一流ブランドからオファー殺到間違いなしでしょう。むしろ多すぎるオファーを断るのにひと苦労でしょうね。ハァ、今から先が思いやられます。」
「いや、それはないだろ。」
「シャネルが、グッチが、ディオールが、俺を呼んでいるんです! 早く行かなければ!」
「絶対呼んでない。」
「いやいや、声枯れそうな大絶叫でみなさん呼んでますよ〜。『カモン、クラマ!』『ウェルカム、クラマ!』って・・・。それにしてももう、まったく飛影ったら。」
 蔵馬はぷうと頬を膨らませた。
「さては妬いてるんですね? あなたの身長じゃモデルは到底無理だから・・・。すみません、こればっかりは遺伝ですからね。潔くあきらめてください。」
「んなわけないだろ! ふざけんな! 俺はモデルになんかなりたくない!」
「とか言っちゃって。あいにく俺には全部お見通しですよ。昔から嫉妬されるのには慣れてますから。」
 確かにこれだけはトップモデル並みと言っていい真っ白で完璧な歯並びを見せつけて、蔵馬はニッと笑った。
「安心してください、飛影。俺がトップモデルになったあかつきには、もちろん元助手のあなたも花のパリコレに喜んでご招待するつもりです。しかも誰もが羨むフロントロウ、選ばれた者しか座れない栄光の最前列ですよ。死ぬまで感謝してくださいね。」
「ほぉ。言ってくれるな、蔵馬。」
 飛影の大きな吊り目がキラリと光った。
「じゃあ今焼き上がったばかりのあのシフォンケーキはいらないな? トップモデルを目指すなら、お前はこれから甘いものを断って厳しいダイエットに励まないと・・・。よし、あれはお前の代わりに俺と躯で食べることにしよう。」
 蔵馬は慌てて両手を振り回した。
「ご、ごめんなさい、飛影!! 機嫌直してください!!」
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