美男子探偵蔵馬シリーズ(ミステリ)

□モデル系ホモカップル殺人事件 中編<美男子探偵蔵馬5>
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「そういえばねぇ、愛さんってうちのモデルの裕也君と一時期付き合ってたのよ。知ってる?」
 高い位置でポニーテールに結った蔵馬の髪をいったんほどき、今度はひと昔前の女子学生のような低い位置でふたつに分けたきっちりした三つ編みを作り始めながら、梢は何気ない口振りで言った。
「えっ、愛さんが? 裕也君と?」
 驚いた蔵馬がとっさに大きく体を動かしたので、せっせと丁寧に三つ編みを作っている途中だった梢は細い眉を上げ、ちょっと怒った顔をした。
「もう、探偵さん! 動かないで! せっかくきれいに編んだのが崩れちゃうじゃない!」
「あ、すみません・・・。」
 恐縮した顔で素直に謝りながらもさっきの梢の言葉が気になってしょうがない蔵馬は、さっそく梢に話の続きを促した。
「そういえば俺もさっきファミレスで愛さんから、過去に一度だけ男の人と付き合った経験があると打ち明けられましたが、まさかその相手が裕也君だったとは予想外でした。そりゃ裕也君は現在誰もが認めるトップモデルだしルックスは文句なしに格好いいけど、なんだか雰囲気がワイルドというかちょっと不良っぽい感じがして、真面目な愛さんの彼氏って柄じゃない気もしますけどね?」
 少なくとも愛にあんな馬鹿男は似合わないと考えている蔵馬が納得の行かない顔で言うと、梢は上品な仕草で口元に手を当てて、クスリと笑った。
「そう? 結構お似合いだったのよ、あのふたり。それに裕也君みたいなやんちゃなタイプは意外と真面目な女の子にも人気があるのよ? 少女漫画やテレビドラマでよくあるでしょ、世間知らずのお嬢様が不良少年に惹かれるっていう、例のあれよ、あれ。」
「・・・なるほど。自分と正反対のタイプの相手だからこそ、惹かれるってことかな。しかし・・・裕也君ってゲイですよね? じゃなかった、バイセクシャルですよね? そのへんは愛さんは気にならなかったのでしょうか?」
「そうねぇ。彼女の場合、仙水さんのこともあるから、案外そういうの慣れちゃって平気だったのかもしれないわね。私がいつの間にか弟の樹がゲイだということに慣れていたのと同じよ。」
「う〜ん、それってそんな簡単に済むことなんですか? 俺だったら気になって気になってしょうがないけどなぁ。」
 蔵馬は首を傾げたが、梢は構わず笑顔で話を進めた。
「まぁ、とにかく・・・当時はふたりともとても幸せそうだったし、あのままずっとお付き合いが続くといいなと私は陰ながら応援してたんだけど。ねぇ、稲辺?」
 梢に話を振られ、ベテランの使用人らしい洗練された動作で蔵馬のためのコーヒーを淹れていた稲辺は深々と頷いた。 
「はぁ、確かにふたりとも、見ていてこっちが嫉妬を超えて頭にくるくらい理想的な美男美女同士で、ちょうど年齢も近くて・・・あれで意外と性格の相性もいいらしく、実際仲が良さそうでした。」
「・・・ふぅん、あのふたりがねぇ。そういえば、ちょっと子供っぽいとことか純情一直線で周りの迷惑顧みないとこなんかが実は共通してるかな? それにしてもふたりとも苦しい失恋の傷を癒すせっかくのチャンスだったのに、どうしてすぐに別れちゃったんですかね?」
 蔵馬は不思議そうに言って、首をひねった。
 ・・・そのとき。
「なんだ、また俺の話?」
 急に4人の背後のドアが音もなく開き、蔵馬にもつい最近聞き覚えのある、あの男らしく若々しい声が聞こえてきた。
「大の大人が4人も集まって、暇だねぇ。他にもっとマシな話のネタないの、あんた達?」
 4人が慌てて振り向くと、そこにはニヤニヤと生意気な薄笑いを浮かべた裕也がたくましい長身をそびえさせて立っていた。
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