パラレル飛躯二次創作A

□激苦グレープフルーツ
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 毎日躯と同じ教室で過ごせるのは最高なのだが、耐えられないことがひとつある。美術の授業だ。あいつが男どもにちやほやされているのを見るのは、そりゃ面白くないが、昔から慣れっこなのでもうあきらめがついている。どのみちあいつは俺に輪をかけた天然だから、男どもにまともに応じることはない。しかし美術は駄目だ。
 美術の時間、躯は頬杖をついた手を半開きの可愛い口に当て、惚れ惚れした表情でひたすら前を見つめている。純粋な熱い視線の先には、ニヤついた顔の脂ぎってギラギラした嫌味な中年男。美術教師、梶原だ。まったく相手を間違えているとしか言いようがない!完全無欠な躯の、想像を絶する男の趣味の悪さ。躯がアレにひと目惚れしてからもう2年以上経つが、俺は今でも信じられない思いだった。躯にアレではどう考えても釣り合わない、恋は盲目とはよく言ったものだ。俺から見れば、いや大抵の者から見れば、アレが根性のねじまがった性悪な俗物だということは一目瞭然だ。なのに躯にはなんとアレが「ダンディなおじさま」に見えるらしい。・・・いかん、ついて行けない。今も躯は奴のインテリ気取りの美術史講義にうっとり聞き入っている。頭のいい躯がなぜあの男の本性を見抜けないのだろう。
 授業中、梶原は躯にばかり当てる。当てられた躯は立ち上がって一生懸命答えるのだが、そのデレデレとした様ときたら、とても見ていられない。梶原とじっと見つめ合って、もう完全にふたりの世界なのだった。授業中に教室の中でこんなことが許されるのだろうか、俺は額に青筋立てて、自分を抑えるのにいつも必死だ。
 授業が終わると俺は早速躯に噛み付く。
「さっきのザマはなんだ、お前のアホ面が不気味すぎて俺はまともに授業を聞けなかったぞ。そうじゃなくてもあんな奴の授業なんて聞く気はないが。」
 躯は他人事のようにクスクス笑った。
「お前、そんなだから美術2なんだよ。」
「俺のことはどうでもいい。お前あんな46の気持ち悪いオヤジのどこがいいんだ。俺達の親より年上じゃないか。変態にも程があるぞ、いい加減あんなの追いかけるのやめろ。」
「一生やめない。」
 ・・・あ〜、辛い。何なんだ、この女。一途なのも情熱的なのも結構だ、だが男を見る目がなさすぎる。致命的だ。そこ間違ったら最悪なんだといくら俺が説得しても、こいつは笑って聞き流す。
「今日も行くのか?あいつのとこに。」
「ああ、もちろん。」
 俺はまたため息をついた。あの変態エロ教師は、あろうことか躯に自分の絵のモデルをさせている。それで躯は毎日放課後、あいつのもとに駆けつける。いくらなんでも危険すぎるだろう、そんな課外授業。PTAにチクってやりたいくらいだが、それで躯に嫌われても困るので、俺は毎日躯に強制的に付き添って梶原のところに通っている。

「ああ、うん、顔はその角度がいいね。」
 梶原がキャンバスを前に躯の姿をデッサンしているのを、美術室の隅から俺は身じろぎひとつせず睨みつけている。出来ればこの場でボコボコに殴り殺してやりたいくらいだ。梶原は背が高く整った顔立ちの独身男だが、表情に卑しい人柄が滲み出ていて、ぞっとするようなクソ野郎だ。あいつの描く躯はいつも変に色っぽく、あいつの下心が透けて見えるようで吐き気がする。そんな風に描かなくてもそのままで躯は最高にきれいなんだ。あいつにはそれがわかってない。躯は梶原のリクエストに応えようと必死でモゾモゾと体を動かしている。
「手の重ね方をもう少し変えられないかな?えっと、そうだな・・・説明が難しい。」
 そう言って梶原は椅子に腰かけた躯に近寄った。厚かましくもあいつの白い手に触ろうとしたのを、俺は素早く払いのけた。
「おい、調子に乗るな。」
 俺がドスのきいた声で食ってかかると、梶原はたちまち怯んだ。
「何なんだ君、勘違いしてないか。僕はそういうつもりじゃ・・・。」
「そうだぞ飛影、お前おかしいぞ。先生は紳士なんだ。」
 どこが紳士だ!!と叫びたいのはやまやまだったが、何とかこらえた。
「君がいると集中できないから、もう来ないでもらいたいんだけどね。」
 梶原が言うと躯も頷いた。
「先生の言う通りだ、お前いちいちついて来るなよ。」
 ・・・要するにふたりきりになりたいってことかよ!それは出来ない相談だ。躯をモデルに描きたいという奴の気持ちはわからんでもないが、というか絵を描く奴は誰でもそう思うに決まってるのだが、そうは言っても教師と生徒という立場をわきまえる必要があるんじゃないか。
 俺は梶原だから怒っているわけじゃない。多分相手が誰であろうと、躯が俺以外の男に興味を持つのを俺は気に食わないのだろう。だけどよりによってあんな腐った野郎に惚れなくてもいいじゃないか! 
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