パラレル飛躯二次創作A

□激苦グレープフルーツ
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 今日の俺は機嫌が悪かった。昨日の進路相談で、今のままだとS高は無理だと担任に言われた。S高は近所の私立高校で偏差値のなかなか高い人気校だ。自分でも危ないかなとは思っていたが、はっきり言われて落胆した。俺がS高希望なのは、もちろん躯がS高に行きたいと前から言っていたからだ。躯からしてみたらS高は安全圏中の安全圏だ。
「お前、今日やけに暗い顔してるな。」
 朝、いつものように遅れて家を出てきた躯が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。俺は躯の顔が見られなかった。もしこいつと同じ高校に行けなくなったらどうしよう。
「おい、何か言えよ。」
 躯がせっつくが、何と言ったらいいのかわからなかった。
「飛影。」
 躯が腕にしがみついてきたので、やっとあいつの顔をまともに見ると、ああ、俺このままじゃいけないなと思った。俺はボソッと呟いた。
「俺、これから猛勉強する。」

 その日から俺のガリ勉受験生活が始まった。睡眠時間5時間、あとは全部勉強時間だ。メシも風呂も全部暗記をやりながら済ます。移動時間も全部参考書にかじりついている。そのせいで時々車に轢かれそうになるが、俺は反射神経に優れているので大丈夫だ。電柱にもしょっちゅう頭をぶつけているが、脳ミソは大して入ってないくせに石頭だから助かっている。毎日なかなか危険でいっぱいだ、しかしこうでもしないと俺の貧弱な記憶力はきちんと働いてくれないから仕方ない。
 もともと集中力と持続力は自信があるのでこんな窮屈な生活も乗り切ることができた。俺にとって幸運だったのは、躯の存在だ。わからない問題は何でもすぐ教えてもらえる。登校、昼放課、下校、放課後、いつもあいつは俺の勉強につきあってくれた。
 帰ってから躯の部屋で毎日遅くまで勉強する。躯と一緒なら受験生活はむしろ天国だ。
「なんで分数の通分をいまだに間違えるんだ!?小学校からやり直して来い!」
 あいつは顔に似合わず辛口だが、言ってることはもっともだし俺は言われっぱなしだ。
「・・・ど忘れしただけだ。」
 何にしろ、どんな形であれこいつと一緒に過ごす時間が増えて大変嬉しい。
「東方見聞録を書いて、日本を黄金の国ジパングと紹介したのは?」
「・・・たまごボーロ?」
「マルコ・ポーロな。アホだろ、お前。よし、次。1271年に元を建国したのは?」
「エビフライ。」
「おい、わざとか?」
 ・・・フビライ=ハンだったらしい。
 躯の俺に対する評価が下がる一方な気もするが、それでも嬉しい。
 ときどき躯は疲れてしまい、俺を横目で見てあくびをする。
「お前、ほんとに勉強ばっかしてるな。つまんなくないか、そんなの。」
「つまらんとかそういう問題じゃない。」
「そんなにS高行きたいのか?」
「ああ。」
「なんで?」
「近いからだ。」
 素直になれと言われても無理だ。どうせあいつの頭はあの変態教師のことでいっぱいで、俺の入る余地はない。
「最近のお前、つまんないよ。もともと無口なくせに、勉強勉強でさらに話さなくなってさ。」
「すまないな。」
 今は辛抱しなきゃいけないときだ。俺の未来がかかってる。

 血の滲むような努力の甲斐あって、3年になって俺の成績はみるみるうちに急上昇した。英語が2であとは3だった主要5教科は、国語だけ4だったがあとは全部5になった。副教科は少しは上がったが、主要5教科ほどの上昇は見られなかった。体育は間違いなく常に5がとれるのだが、あとの科目は技術は4で精一杯、音楽は音痴なので2で固定、美術は最悪でついに1がついてしまった。理由は明白で、梶原に目の敵にされているからだ。試験の学年順位はかなり上位に入るようになった。国語だけ80点台だったが、あとは全部90点以上とれた。これならS高にもきっと合格できるだろう。
 受験が本格的に近づいてきたので、例の美術のいかがわしい課外授業もなくなった。俺は心底安心し、また努力によって得た達成感をしみじみと感じていた。
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