パラレル飛躯二次創作A

□マゾヒスト
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 店長は物腰の柔らかな、地味でおとなしそうな中年男だった。
「シフトにはどれくらい入れるのかな?」
「相当稼がないとやっていけないので、大学に行っている時間以外は全部働くつもりです。」
「へぇ、それは頼もしい。最近続けてふたりもバイトが辞めちゃって、困ってたんだ。ここだけの話、ワケありだけどね。」
 気になる言葉に俺は眉をひそめたが、店長は相変わらずニコニコ笑っているので、まぁ大したことではないのだろうと安心した。
「じゃ、明日から来てよ。飛影君・・・だっけ?」

 初めてのバイトは驚きの連続だった。
 まず気付いたのは、このコンビニの従業員はほぼ全員、野郎ばかりということだ。俺のように大学生の若いアルバイトがほとんどで、あとはフリーターがふたり、社会人バイトがひとり、それから俺の面接をした店長と、30代の契約社員の副店長がいる。コンビニバイトというものは普通はもっと女子大生や主婦がいるものと思っていたが、ここは例外で、見事に男のみだ。むさ苦しい男ばかり17人。
 もちろん紅一点、俺が面接に来たときに応対したあのお高くとまった美人がいる。名前は躯といって、23歳の大学院生だ。この店でもう4年間バイトをしている古株らしい。
「じゃ、ますレジの打ち方から教える。レジ初めてなんだろう?参ったな、手がかかりそうだ。」
 例の30代の契約社員、奇淋がぶつくさこぼしながら俺の指導に当たった。奴はまだ30代だとはとても信じられない老けた印象の、真面目で暗い大男だ。見た目は野暮ったいが、頭の回転がいい上に仕事の手際も良く、副店長を務めるだけあってなかなかしっかりしている。
 奴は作家志望で、小説を書きながらここで働いているらしい。歴史小説専門で書いていると言うが、外見も中身も、当の本人がひと昔前の古臭い骨董品野郎だから納得だ。髭こそたくわえていないものの、古武士のような雰囲気がある。もちろんけばけばしいコンビニの制服はまったく似合わない。
「ああ、なにもかも初めてだ。初心者で悪かったな。」
 俺はぼそっと皮肉を言ったが、奴は聞こえないふりをした。しかしその後むちゃくちゃ手厳しい指導を受けて散々しごかれたから、もしかしたら怒らせてしまったのかもしれない。多分そうなのだろう。
 自分で言うのも何だが、俺は至って飲み込みがいいほうだ。レジ打ちなんて朝飯前、他の仕事も一日でほぼマスターした。
「ふぅん、覚えがいいじゃないか。」
 奇淋は面白くなさそうに言って俺をジロジロ眺め回した。
「で、お前、どうしてここのバイトを選んだんだ。やっぱり・・・。」
「・・・やっぱり?」
 俺がきょとんとして聞き返すと、奇淋は探るような目で俺の顔を見て言った。
「とぼけるな。お前も躯様目当てなんだろ?」
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