パラレル飛躯二次創作A

□あべこべ
2ページ/8ページ

 重い扉をギィと大きな音を立てて開けると、だだっぴろい部屋のまっすぐ向こう、20メートルほど先に巨大な寝台がしつらえてある。そこにいかにも暇そうにけだるく腰かけているのが百足の主、魔界で最強の男と謳われる妖怪、飛影だった。黒い髪に黒い服、大きな鋭い目がギロリと躯を睨みつける。天才少年として名を馳せた彼は、800歳の今もなお、あどけない少年の面影を残していた。だが彼の発する禍禍しい妖気は躯がこれまで出会ったどの妖怪よりも遥かに強く、柔らかい肌にピリピリと刺すような痛みを覚えた。
「なんだ、そのガキは。」
 子供っぽくさえ見える外見とは裏腹の、腹に響く低い声で飛影は尋ねた。
「この子がひとりで野宿してるのを散歩途中に見つけて、可哀想だし拾ってきたの。可愛いでしょ。」
 臆することなく孤光が答えた。
「貴様、次から次へと女ばかり連れてきて、どういうつもりだ。おまけに今度はガキか、話にならん。もうこれで77人目だぞ。」
「フフフ、大奥みたいでしょ。飛影、あなたって魔界一の幸せ者だわ、ここはまさに男の夢の実現だもの。私ね、これでも主思いなの。」
「ふざけるな、俺はひたすら迷惑だ!こんなに女ばかりいて、騒々しくてかなわん。」
「とかなんとか言って、本当は嬉しいくせに。」
「ありえん!」
「もう、ムキになっちゃって。わかったわ、今夜は久々に夜這いかけてあげる。」
「死ね!」
 いまいましそうに舌打ちをして、飛影は少女に目を移した。
「で、こいつ、いくつだ。まったく、こんなガキじゃ戦力にはならんぞ。」
「7歳よ。ちょっと、あんたの目ってほんと節穴ね、わからないの?ちゃんとよく見て、この子の潜在能力凄いのよ、私やあなたの比じゃないわ。」
 そう言われて飛影は躯をしばし値踏みするように黙って凝視した。思わず息を呑んだ。
「・・・確かにそのようだな。驚いた。」
「だから連れてきたのよ。いくら私だって可愛いってだけで連れてこないわよ。」
「わかった。謝る。」
 ふたりが話している間、躯は瞬きもせず魅入られたように目を大きく見開いて飛影を見つめていた。その様子を見て飛影は眉をひそめた。
「なんだ、ジロジロこっち見るなガキ。落ち着かん。」
「・・・お前」
 少女が初めて口を開いた。7歳という年齢よりずっと大人びた落ち着いた声と口調に、飛影はハッとした。
「・・・男だったのか。ここは女ばかりだと聞いて来たのだが。」
 飛影はフンと鼻を鳴らした。
「俺以外は全員、女だぜ。お前含め77人、みんな女。こっちは肩身が狭くてやってられん。」
「そうか。俺・・・男、ダメなんだ。」
 そう言って躯はぱっちりとした目を伏せた。
「・・・そう言われてもな。まぁここにいても俺に会うことは滅多にないから大丈夫だと思うが、それでも気になるなら出てけよ。どういう事情なのか知らんが。」
 顔を上げて躯は飛影の顔を無言でじっと見た。ふいに子供らしくニコッと笑った。
「だけど俺、お前なら平気だ。お前、気に入ったぜ。このおっきな虫の移動要塞も好きだ。」
「俺はガキに好かれる性質ではないはずだが・・・。」
 躯は愛想良くニコニコと飛影に笑いかけた。
「だってお前チビだから恐くないし、それに・・・」
 チビと言われて飛影はムッとした。
「失礼なガキだな。それにどうした。」
「・・・可愛い。」
 満面の笑みを浮かべ、躯は無邪気に答えた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ