パラレル飛躯二次創作A

□私が彼を好きにならない11の理由
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 躯が彼の姿を初めて見かけたのは、4月終わりの学食の食堂だった。いつも大学近くの洒落たカフェでの日替わりランチと決めてるのに、その日に限って授業の都合で時間がなくて、躯は彼氏の直樹と一緒にキャンパス内の大きな食堂にいた。直樹が躯の分まで長い注文の列に並んでくれている間、躯はテーブルに座ってすることもなくぼうっとしていた。
 なんとなく周りを見回していると、遠く離れた入り口近くの席にひとりで座ってカレーライスを食べている男子学生が、ふと目にとまった。逆立った黒髪に大きな鋭い目のおチビちゃんで、なかなかに個性的な風貌だった。
「あれ、あんな奴この大学にいたっけ。確かに人多すぎな大学ではあるけれど、あんなに目立つんだから、今まで一度も見たことないのはおかしい。新入生かな。それとも授業サボってあんまり来てなかったのかな。」
 彼のあどけない小さな鼻と口、そしてまだ学食にあまり慣れてない様子をジロジロと観察して、躯はたちまち結論を出した。
「新入生で間違いない。」
 なぜだかその新入生から目が離せなくなって、躯は彼をしばらくじっと見つめていたのだが、その当の本人はわき目も振らず黙々とカレーに集中しており、まるでこっちを見る素振りがない。
 彼がちっともこちらに注意を払わないので、躯はだんだん腹が立ってきた。これでも一応彼女はこの大学でいちばんの美人と言われていて、多くの学生が名前を知っているちょっとした有名人だ。今だって周りの学生達が男女問わず彼女の方をチラチラと振り返って見ているではないか。なのにあのチビときたら。
「多分、席が遠すぎるんだ。」
 彼女がイライラしながらそう考えていると、直樹が両手にたっぷりふたり分の食事をのせたトレイを持って現れた。
「お待たせ。躯の注文、これで良かったよね?」
 前にどんと置かれた盛りだくさんのトレイを見て、彼女は嘆いた。
「これじゃ多すぎるよ。こんなにたくさん食べられない。」
「食べきれなかったら残してもいいし、良かったら俺も少しもらうよ。俺のおごりなんだから、いいだろ?」
「はいはい、いつもながら気前のいいことで。」
 屈託なく笑う直樹に申し訳なく思いながらも、彼女は食事よりもあの新入生のことが気になって仕方なかった。彼女はトレイの上のグラスをいきなり掴み、いっぱいの水をゴクリと一気に飲み干した。
「水のお代わり取ってくる。」
 彼女がグラスを持って立ち上がると、直樹も慌てて立ち上がった。
「そんなの俺が行くから、躯は座っててよ。」
「いい。自分で行きたいんだ。座ってばかりで飽きた。」
「・・・そっか。」
 直樹はしぶしぶまた椅子に腰を下ろしかけたが、躯が歩いていく方向を見て驚いて声をかけた。
「躯!こっちにも水あるぞ!わざわざそんな遠い方に行かなくてもいいだろ!」
「いいの。ちょっと遠くまで歩きたい気分だから。」
 躯は給水機に向かって歩いていく途中、さりげなく例の男子学生の脇をわざと通った。しかしカレーを食べ終えた彼は、怒ったような仏頂面でゴクゴクと水を飲むばかりで、やはり少しも彼女のほうを見ない。
「ちょっとどうなってるの、あいつ。」
 水を入れると躯は今度はわざと乱暴に大きな足音を立てて、ぶつかるのを覚悟の上で男子学生の席すれすれを通った。彼女の肘が彼の肩に当たりそうになったので、男子学生は一瞬彼女のほうを機嫌悪そうに見たが、すぐに無言で前に向き直って皿を片付け始めた。
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