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□救世主
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あれは 俺がまだ
アカデミーに入る前の事だった。


その日俺は、
いつも自分を馬鹿にしてくる
同い年の集団にカッとなって
つい殴り掛かってしまった。

いつもは無視していたのに、
その日だけは
何故か我慢出来なかった。


しかし、相手は7〜8人のグループ。
たった1人で敵うはずがなかった。

俺は、見事にこてんぱんにやられた。




「ざまぁみろ、馬鹿なると!」

「弱いくせに調子に乗るからだ!」


そう言って、
その集団はどこかへ走り去って行った。

時々 面白い物を見るような顔で
俺を振り返りながら。



俺は1人、
地面に横たわったままだった。



仰向けになると、
透き通るような空が目に入る。

青空に夕焼けがかった、
遠くて綺麗な空だった。




「ナルト…?」



ぼんやりと空を眺めていると、
頭の先の方から俺を呼ぶ声がした。


仰向けになったまま
顔だけその方向を向くと、

俺の顔を覗き込むようにしている
女の子と目が合った。



「いの…?」

見ると、いのの顔は今にも泣きそうだ。



「ナルト、痛そう……」

そう言うと いのは俺の横に座り込み、
ボコボコになった俺の顔を
心配そうに見つめた。



いのは昔から美人だった。

優しさの宿った、
透き通るような蒼い瞳。


それはまるで、
さっきまで俺が見ていた空のようだった。




「…ぅわっ?! 何すんだよ、いの!」


いのに見とれそうになって
ハッと気付くと、

いのは自分の肩に俺の腕をまわし、
俺を担ごうとしている様子だった。



「ナルト、歩けないでしょ?
私の家に行って手当てするから。」


「んなの必要無いってば…痛っ!」


「ほらね、必要あるでしょー?」


「うっ…」



「もうすぐ夕方だし、
今日は家でご飯食べてってよ。」


「え?! い、いいよそんなの…」


「いいじゃない、ついでだし。」


「…でも、」


「んー?」


「…俺ってば里のみんなに嫌われてるし、
いのとだって
仲良いわけじゃないのに…

何で俺なんかに
そこまでするんだってばよ…?」


「そりゃあ、だって…


…ナルトは、私の大事な友達だから。」


「…………………」





言葉が出なかった。


驚きと、嬉しさと、
何とも言えない気持ちが混ざって、
言葉に出来なかった。



いのは、こんな俺の為に
ここまでしてくれるのか…




優しい人を
久しぶりに見た気がした。






それから いのはいつも
俺の事を気にかけてくれた。

俺が1人にならないように、
いつも側に居てくれた。

幼かったいのなりに、
精一杯の心遣いを向けてくれた。



人気者のいのと居ることで、
自然に俺達の周りには人が集まってきた。

そこで出会ったのが、
後にかけがえのない仲間となる
サクラ達だった。


…もちろん、サスケも。




いののおかげで、
俺は1人じゃなくなった。

人を信じられるようになった。

仲間を大切に思えるようになった。


そして、



人を愛する事を、知った。





その時から今まで、
俺はずっといのに片想いしてる。


いのは気付いていないだろうけど。



それでも良いんだ。



いのと一緒に笑い合えれば。


いのが幸せなら、それで良いんだ。







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