小説

□「届かなくてもいい」なんて嘘
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綺麗な夕焼けが私達を赤く照らす。

赤いあなたの服はいつも以上に真っ赤で。まるでトマトみたいだなぁ、と思った。
あなたが嫌いな食べ物だから、それと同じ「赤」に笑みがこぼれて


不思議に思ったあなたがなんだよ、と首を傾げる。


声が出ないから指であなたの手に「トマトみたいな赤い服だね」、とつづった。



「…ばか。」


あなたは私にこつん、とオデコに軽く拳を当てたけど。

感覚のない私にはそれが痛いのかどうかも分からなくて。ただ笑う事しか出来なかった。


私があなたと居られる時間は後僅か。
あなたと出会って、嘘のように世界に色がついて。
私が16歳になるのがあっという間だと思った。
短いと感じた間であなたへの想いはどんどん募った。けど


口にするには遅すぎて。
言葉にするには時間が足りない。
だから伝えないままでいい。届かなくていいよ。


この想いは――


それが未来のない私にとっても。
未来のあるあなたにとっても、正しい選択



そう思うよ。





「もうすぐしたらコレットは天使になるんだな…」


ポツリと呟いたあなたを見つめれば。
真剣な鳶色の瞳と眼があった。


ドクン。と心臓が脈を打って顔に熱がいくような気がした。


「いいのか?本当に…」


いつもより低い声がやけに耳に響いて、溶けてしまいそうだ。


あぁ、私。
こんなにもあなたに惚れているんだな。


真剣って分かるからあなたの優しさが心に響いて



キューっと胸が締め付けられる。









「コレット?」




はっ、と気づくと
無意識に左手であなたの手を握って右手の人差し指をあなたの掌に乗せていた。





私―――



「`す'の次は?」





どうやら途中で指が止まったまま、動かなかった私を気にして声をかけたようだった。


書きかけた文字。

私は軽くロイドに微笑んで


「ご、く、ゆ、う、ひ、が、き、れ、い、だ、ね…」


"す"ごく夕日が綺麗だね
と伝えた。


文字を書き終えてあなたの瞳を覗くと
そうだな、と夕日にその瞳を移していた。










本当は違う。


"す"の次はたったの1文字しか続かないの。


















『す、き』


伝えないと決めていたのに。



やっぱり無理だった。



ギリギリで止められたのは我ながら凄いと思った。

だってこんなにもあなたの事が好きで、好きで。


いつかはその瞳も笑顔も誰かのものになる事が嫌なのに……


それは望めなくて



伝えちゃいけない












けど伝えたい。


届いて欲しいよ。この想い。



だから



声にならない今だけは





口パクで書けなかった2文字の言葉を呟いてみた。






(終)





《後書き》
どうしてもロイコレは切なくなります…

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