師走の夢。
□12月1日
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「ちょっと鯉さん!いくら馴染みといっても困りますよ!」
「………」
何やら喚いている女将を振り切って、いつも姫に会うために通っていた廊下を進む。
何も変わらない店に少し懐かしさを感じながら、とある襖の前で立ち止まった。
「鯉さん!本当に菊里はいないんだよ!だから止めておくれ!」
襖に手をかけると、女将が眉をハの字に下げて腕にまとわりついてくる。
「アイツがここにいねぇなら、この部屋に入っても困らねぇだろぉ?」
女将を見下ろして言い切ってから、一気に襖を開ける。
部屋の中までもここに通っていた頃と何ら変わりなくて、思わず姫と付き合っていたあの頃に戻っていたような錯覚に陥った。
ただ、あの頃は笑顔の姫が迎えてくれていたのが、今はない。
変わりに中年男が目を閉じて動かない姫を犯していて、あまりに不愉快極まりないその光景に、眉間に皺を寄せた。
「…オイ、その女から離れろ…」
「な…何だ君は!出て行け!私はこの女に金を払ってるんだ!どこの誰かもわからん馬の骨に指図される覚えはない!」
声を掛けてやっと俺の存在に気付いた男は、俺の顔を見るなりまくし立てる。
「オイ!女将も何とか言わんか!その若造を追い出せ!」
しかし、姫がピクリとも動かないことを不審に思って、男や女将の制止を振り切って姫の傍に駆け寄った。
「うっ!」
姫から離れようとしない男を吹っ飛ばして、姫の頬に触れる。
「姫…姫!?オイ、起きろ!姫っ!!」
しかし、触れた姫の頬は冷たくて、息をしていなかった。
「姫…死んでんじゃねぇよ…狒々と幸せになるんじゃなかったのか…?」
もちろん返事はなくて、ずきん、と胸が痛む。
「女将、コイツは連れて行くぜ」
何やら男と揉めている女将にそう言い捨てて、冷たい姫を掛け布団でくるんで抱き上げると、窓からひらりと店を出て、吉原を後にした。
→おまけ&つぶやき。