師走の夢。

□12月3日
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「狒々様…姫さんのお葬式は…」


「………」


部下の言葉に、動かない姫を抱き締めたまま黙り込む。


正直なところ姫と離れたくなくて、このまま一生この亡骸を抱いていたいが、現実的にそれは叶わない。


「…あぁ…準備してくれ…」


渋々そう答えると、部下は無言で部屋から出て行った。


再び静まり返った部屋の中で、目を開かない姫の顔を見つめ続ける。


守ってやれなくて、すまんかったのぅ…


そっと唇を重ねると、姫の照れて赤くなった顔を思い出す。


それも、もう見ることが出来ないんだと思うと、酷く胸が痛んで気が狂いそうだった。


「最後に…一緒に眠ってくれんかのぅ?」


話しかけても返事がないのはわかっているのに、期待してしまう自分に苛立つ。


そっと姫を布団の上に寝かせて、その身体をしっかり抱き締めながら目を閉じた。





「……さま…狒々様………」


ん…?


姫か?


ゆっくり目を開くと、そこは真っ白な世界だった。


「狒々様…ごめんなさい…」


愛しい声がした方を見ると、姫が膝をついて泣き崩れている。


「姫!会いたかったぞぉ…!何故、泣いておるんじゃ…?」


しゃがみ込んで姫を抱き締めると、姫も必死にしがみついてくる。


酷く懐かしく感じる姫の体温に、思わず涙が溢れそうになった。


「ごめ、なさい…ごめん…なさい…赤ちゃん…守れませんでした…」


嗚咽混じりにそう言った姫の頭をそっと撫でてやると、姫がおずおずと顔を上げる。


「儂こそ、姫を守ってやれなくてすまんかったのぅ…」


しっかり目を合わせて言うと、姫は泣きながら目を細める。


「狒々様…あ、」


姫が何かを言おうとした瞬間、強い風が吹いて姫の身体は砂のようにサラサラと消えていった。





「………姫!」


ガバッと身体を起こすと、そこは自分の部屋だった。


隣には、姫が変わらず横たわっている。


「…はぁ…何じゃ、夢かァ…」


一応、姫の身体を抱き締めてみるが、やはり体温は感じられない。


「諦めきれない儂のために…わざわざ戻ってきてくれたのかァ?」


そう問い掛けてから、身なりを整えて姫を抱き上げる。


ちゃんと葬式してやらねぇと、姫も赤ん坊も供養出来ねぇもんなァ…


襖に手をかけてから、ふーっと長い息を吐いて気を引き締める。


葬式の準備をしている広間まで、最後の2人きりの時間を惜しむようにゆっくりゆっくりと歩いていった。





→つぶやき。
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