BOOK

□とある言葉が突き刺さる
1ページ/1ページ





深夜、不意に目が覚めた后は自分の体が動かない事に気付いた。


生まれて初めて、人生初の金縛りか―――‥と思っていたがスグに把握した。
「言〜‥」
脱力した后の声が静寂に消える。
整った顔立ちの弟、言の寝顔が近くにある。
どうやら自分が寝ている間に布団に忍び‥入り込み、引っ付いて眠ったようだ。
スヤスヤと気持ち良さそうに寝る。
気持ち良さそうに眠っている言の顔は年相応の雰囲気が出ていた。
だがしかし、顔立ちが良すぎる‥
思わず見つめてしまうくらい。


触ると案外に柔らかくて気持ちがいい黒い髪‥
長い睫毛‥
てかやっぱり作りが良すぎるだろ‥!!
――――等と考えていた后の体がグイっと言に引っ張られ、更に密着した。


「‥‥兄さん」


言の唇が動き、瞳がゆっくりと開いた。
「言‥起きたのか―――」
「そんなに見つめられると照れるんだけど‥」
「っ!?」
はにかんだ様に笑う言は、驚いて固まった后の頬にキスをした。
「兄さんに見つめてもらうの好きだけどね‥僕だけちゃんと見ててくれてるんだなって分かるから」
「っ、‥!!言!」
顔が真っ赤になる后を見て再び言は嬉しそうに柔らかに笑う。
「かわいいね‥兄さん」
頬を優しく滑る様に撫でられ、再び言の瞳が閉じられた。


再び静寂。
そして言の寝息が聞こえる。


「えっ?‥い、今の‥‥寝ぼけ‥‥か??」
先ほどより腕にガッシリとしがみ付かれながら眠った言に、后は静まらない胸の鼓動を抑えつつ見つめた。
后の存在と香りに安堵して眠る言。
「、っ!!さ、‥さっきよりしがみ付きやがって‥‥取れね!」
距離を保とうと試みた后は言の拘束を解こうとするも、びくともしない。
右腕にしがみついて気持ち良さそうに眠る言に、后は少しの怒りを覚えた。
「なんで俺‥眠ってる奴の力より弱いんだよ‥‥」
悲しくなる現実。
仕方なく再び襲う睡魔に、后も諦めてそのまま眠りについた。



温もりが心地いい‥









「后様、おはようございます!!いつまで寝てるんですか、さっさと起きて朝一のジョギングを―――――」
豪快に襖を開けた晴明の声が、止まる。
「ん‥、あぁ〜ウルセーなぁ‥ヒトの部屋の襖、もっと静かに開けられねーのか晴明は‥‥」
まだ眠い目を擦りながら后はムクリと起き上がる。
「そうですね、今後は気をつけるとしましょう」
「なんだよ、やけに聞き分けがいいなっ―――」
后の言葉が止まる。
「滔々、后様。主神言と一線を越えて‥‥」
「ないわ、ボケっ!!」
「そんな隠さなくても言い触らしたりはしませんよ」
「何をだっ!!言、言起きろ!」
「ん‥あ、兄さん‥おはよう」
「おはよ‥」
「昨日、勝手に兄さんの布団に潜り込んじゃった‥兄さんが寝言で僕の名前呼んでくれて‥嬉しくて!兄さん可愛かったなぁ!!」
「えっ‥、!?」
「やっぱり昨日、滔々‥」
襖の影に隠れ、后を疑いの眼差しで見つめる晴明。
「ま、待て待て晴明!!無いぞ‥お前が考えてるような事は‥‥」
「その後ね、兄さんを抱きしめて寝たら兄さんも僕に擦り寄って来てくれて僕ちょっと我慢出来ずに兄さんの――――」
「わぁーーっ!!こ、言‥その話の続きは後で二人っきりの時にしよーなぁ!」
后は慌てて言の口を手で塞いで阻止した。
何が何だか分からない言はキョトンとしながらも、こくりと頷いた。
「別に何をしようと后様の勝手ですが修行の妨げにならない程度にして下さいね?」
「何をだっ!!」
「私の口から言わせるのですか?」
「だから別に何も‥‥」
晴明は后に近づき、少し据わった目で見てきた。
傍にいる言が晴明を冷たく睨み、后の腕にしがみつく。
「お言葉ですが后様、此処が何やら赤いですよ」
自分の首筋を指差し、晴明は告げた。
「え‥、なんだ?虫にでも食われたかな‥‥」
指摘された所をポリポリと掻きながら后は言う。
晴明は呆れた様に溜息をして、告げた。
「えぇ、きっと厄介な虫にでも喰われたのでしょうね‥きっと」
「そ、‥そんなにヒドイか!?」
「大丈夫だよ兄さん、そんな虫‥僕が払ってあげるから」
「虫が余りにもしつこい様なら私が直々に払って差し上げますよ」
言と晴明の間に冷たく不穏な空気が流れた。


「さ、‥さぁ‥とりあえずジョギングしに行くかなぁ!」


二人の様子を感じ取った后は、間に割って入り不穏な空気を遮断した。
「付き合うよ、兄さん」
先ほどまで冷たかった言の表情がガラリと変わる。
「おぅ」
「さて私は朝一の甘酒でも‥」
「朝から気分が萎えるようなこと言うなっ!!」
「酷いですね、私の唯一の楽しみを萎えるだなんて‥」
そう言って晴明は、言から離れた后をギュっと抱きしめてきた。
「な、なんだ‥っ!!」


「晴明、貴様」


後ろで、言の鋭く突き刺さる様な声と冷たい殺気を感じた。
「あぁ、失礼しました。」
晴明は后から離れ、笑顔で言う。
「な、なんだよ‥大丈夫か?」
「すみません、コケました」
「気をつけろよ‥」
「兄さんに近付くな」
后の腕を引っ張り、言は自分の傍に寄せると晴明を睨んだ。
「言‥どうした?」
「‥‥‥」
「では后様、頑張って体力付けて下さいね」
ヒラヒラと手を振り、その場を去る晴明。
「言?」
「―――兄さん、晴明には気をつけてね」
「は?どーした急に!」
「兄さんは僕のだ」
后を強く抱きしめて、言は耳元で囁いた。
「言?本当に、どうした‥?」
言の不安定な気配を感じた后は本気で心配し、言の顔を覗き込む。
「大丈夫だよ、心配しないで」





兄さんの周りにいる虫は、僕が一匹残らず排除してあげるから。


兄さんは僕だけ見てればいい。
僕だけ触れて、言葉を紡いで、僕だけを――――。



「俺は、言が一番だからな!!」
「うん‥」



貴方の言葉一つで動くんだ。


何もかも‥‥。











[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ