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□ウサギの皮を被ったオオカミ
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『ウサギの皮を被ったオオカミ』







「なんだ‥コレ」
后の机の上に置かれた二つのカチューシャ型のアニマルグッズ。
ネコ耳とウサ耳だ。
「そろそろ文化祭もハロウィンも近いからって女子に貰ったんだ」
なんの悪びれた様子も無く甘雨は眩しい程の笑顔で告げた。
「で、なんで俺に渡すんだよ‥」
「貰ったけど俺より后のが絶対似合うだろー!!」
アハハ〜と元気良く笑われ、勝手に鞄の中に仕舞われた。
「ちょ、‥待て待て!勝手に仕舞うなっ!!」
「いいじゃんいいじゃん♪」
「良くないっ――――」


♪〜♪〜


后が文句を言おうとした瞬間、ケータイが鳴った。
「言殿じゃねーの?」
「ん‥?あ、そーだ!言と買い物行く約束してたんだった!!」
ケータイを見るとやはり言からだった。


『学校の門の前で待ってるね』


「急がないと‥言、もう待ってる!!」
后は机の中の教科書類を鞄の中に突っ込み、慌てて教室を出て行った。
「言殿に宜しくなぁ〜」
「おぅ!!」
去り際の甘雨の言葉に返事を返し、階段をダッシュで駆け降りた。








「悪い‥言っ!!」
「兄さん走って来なくても大丈夫なのに」
「待たせんの、悪いだろ!」
「兄さん‥」
言が嬉しそうな笑顔を后に見せた。
「ごめんな」
「ううん‥僕は全然構わないよ♪それより兄さん――――甘雨、そろそろ殺してい?」

弟は甘雨とのやり取りを全部知っているのだろう‥

「俺は言が一番だから‥甘雨は殺すな
ポンと言の肩に手を置き、后は脱力した。







「つ‥疲れた‥‥」
数時間後、后は倒れ込む様にして自分の部屋の畳の上に寝そべった。
豪快に寝そべったせいか、后の鞄の中身が散らばった。
「大丈夫、兄さん‥‥‥‥ん?」
「どーした言?」
「コレなに?」
顔を上げて見てみれば、不思議な顔をした言と甘雨が強引に渡してきたウサ耳とネコ耳カチューシャが目に映った。
「そ、それは‥」
不思議そうに眺めて、不意に言はネコ耳のカチューシャを后に付けた。
「兄さん、可愛い♪」
「可愛い言うな‥」
悲しくなって脱力する。
「ねぇ、兄さん兄さん!!僕にも似合うかな?」
そう言って言はもう一つのウサ耳を付けた。
言の黒髪から生えた白いウサ耳。
それが何故か妙にイケメンな言に似合っていて‥
「言、カワイイぞ‥」
「そうかな?エヘヘ♪」
思わず感想を呟き、照れて微笑む言の頭を撫でてやれば更に嬉しそうに笑った。
「言は何でも似合ってスゲーよな!!」
抱き着いてきた言の頭を撫でながら后は言う。
「そんなことないよ、兄さんも似合ってるよ?ネコ耳」
「それは嬉しくない‥」
「なんで?」
「ネコ耳似合っててもなぁー‥」
「僕には似合ってるって言ってくれたのに?」
「う‥
「兄さん?」
「言、そろそろ宿題しないとな」
痛いところを指摘され、后は思わず話を反らした。
「兄さん、僕はウサギだから構ってくれないと淋しくて死んじゃうよ?」
「コ、コラ‥言っ!」
ぎゅっとしがみついて来た言は体重を掛けてゆっくりと后を倒した。
「兄さん」
見上げれば言の綺麗な整った顔が、じっと見つめている。
「言‥」
ゆっくりと言の顔が近付き、そのまま唇が重なった。
后の戸惑う舌を搦め捕り、口内を存分に味わう。
次第に混ざり合う互いの唾液を、后はコクリと喉を鳴らし飲み込んだ。
言のキスに、后は丸め込まれてしまう。




「兄さん、可愛い‥」
赤くなった頬を撫でられ、そして濡れた唇を触られた。
「言のが‥かわいい」
言の人差し指を、后は甘噛みした。
「兄さんダメだよ、そんな可愛いコトしたら‥僕、抑えが利かなくなっちゃうよ?」
クスリと笑って言は告げた。
「言」
「なに、兄さん」


「トリック=オア=トリート‥お菓子くれなきゃイタズラするぞ♪」


「生憎お菓子がないんだ、だからイタズラして?」
悪戯っ子の笑みを見せた。
「うん、ギャクだと思うなぁ‥お兄ちゃん」
「ん?」

知ってて知らないフリをする。


いくら兄が大好きでも主導権は絶対に譲らない。





「ごめんね、兄さん」


ウサギの皮を被ったオオカミ。


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