飛鳥シリーズ(杏)

□1
2ページ/3ページ

「何、あれ」

その日新しく見つけた古びた道を抜けた所は、

なんと氷帝学園男子テニス部のテニスコートだった。

これなら教室からコートまでまともに歩くよりずっと早い。

テニス部入った男子とか、

教室から練習場所まで全力疾走しないと間に合わないのに。

あいつらがスピードオタクな従兄弟と同じくらい速ければ間に合うだろうけど、

それを一般人に求めるのは酷だ。

……従兄弟、という言葉だけで嫌なモノを思い出す。

頭を振って甦ってしまった古い記憶を振り払い、目の前の試合に目をやる。


コートで試合しているのはやたら偉そうな、確か入学式で爆弾発言をかました一年生と……


「あれ……?」

あの眼鏡、確かに誰かに似てる。

首を傾げた私は微妙な既視感の正体を掴んで――次の瞬間口をパチンと手で覆った。

そうでもしないと叫んでいた。

――あいつ、従兄弟に似てるんだ。

忍足侑士。

ここ数年会ってないけど、確かに似てる。

一瞬同一人物かと思ったが……侑士は眼鏡を掛けてなかったはずだ。

それに、鞄の中に入ってる名簿のどこを確認しても「忍足侑士」なんて名前はどこにも……ない、よね?

「……なんで」

こんなところに忍足侑士って書いてあるんだろう。

これ、学校の名簿だよね。

生徒の名前書く所だよね。

あいつがこんなところにいるはずない。

それでも、忍足なんてそうそうある名字じゃない。

侑士なんて人もめったにいない。

そんなレアな名前二つくっついた奴がこの世に二人いるという事はまずない。

……本人。

「ちょっと、冗談でしょ……」

悪い冗談だと思いたい。

でも状況的には思えない。

まちがいなく真実・現実・事実。

「下剋上等」と怪しく呟く小学生の隣で、私は完全に硬直していた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ