飛鳥シリーズ(杏)

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聞きなれないチャイムの音に私はふっと我に返った。

……あぁ、そうか。

ここ、日本なんだっけ。

自分がいつの間にかオーストリアにある気分になっていたらしいことにようやく気付く。

シャーペンは日本語を綴っていたのに、
我ながら随分と器用な事をしていたらしい。

「もう委員会終わったで? はよ帰ろうや」

「知ってるよ。クラス違うから一人で帰ってよ」

「しゃーないな……。じゃ、また今度な?」

今度など存在してたまるか、と言いかけて自分の手帳に書いた言葉を思い出す。

――週に一度定例会。
時期によっては毎日会議――

隣席は後一ヶ月眠り魔。

同じ委員会に変態従兄弟。

家に帰れば大阪のおばさん(謙也母)から電話がくる。

こんな生活が三年間。

「……最っ悪」

「何がやねん。……ホンマ意味分からんわ」

「分かんなくていいよ」

筆箱をつかんで立ち上がり、侑士の横をすりぬけて廊下に出る。

「冷たいわー……」

「あっそ」

ちらりと腕時計を一瞥する。

……もう帰りのSHRは終わっているだろう。

わざわざ教室に戻ることもない。

放課後突入だ。

私はポケットから図書室の貸し出しカードを引っ張り出しながら階段をかけ降りた。

残念な事に図書室数歩前でクラス担任に捕まった。

「すいません図書館閉まるんですけど」

「頼むから俺の話を聞いてくれ忍足」

「嫌です」

くるりと踵を返す。

「頼む話聞いてくれってば。俺がお前の立場でも断るだろうけど」

担任初めてなぺーぺーの本音が丸出しだ。

「でもな……結果次第では成績上がるぞ?」


ぴたり。
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