その他彩雲
□優しさよりも、もっと欲しいものがある
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全てが終わり、貴陽の屋敷に戻った時、彼は愕然とした。
綺麗な部屋。清潔で整然とした部屋の中心で礼を取る凜。
機能しない頭を揺すり辺りを見回すと、最後に見た多種雑多な発明品は残らず消え失せていた。
目の前で頭を垂れている女性の他に、凜がいた事実が何処にもない。
屋敷の、何処にも。
開いた唇から言葉が零れ落ちる。
「り、ん……これは」
「なんでしょう、旦那様。いえ、悠舜殿」
凜の表情は読めない。諦めか、嘲りか、無
か。
「悠舜殿が帰って下さったので、私もこの場所から出ようと思います。これをお受け取り下さい」
差し出された料紙にきっちりと書かれた三行半を眺め、悠舜は椅子に座り込んだ。
何故か当たり前の様に凛が待っていると思っていた。自分にそんな資格はないのに。
「それでは失礼させて頂きます」
布が床を擦る音が静寂の室内に響く。
扉が閉じる際に生まれた風が頬に当たる。
悠舜は長い溜息を一つ吐くと重たい前髪を書き上げた。
「行かせてたまりますか」
心に残る想いは叶ったというのに、決意の様に漏れた得体の知れない小さな衝動に困惑しながら、彼は喉を上下させた。