Gimme Some Truth

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城の美月が使っていた部屋はそのままにしてあった。
主が居なくなってガランとした部屋に寝床を調えさせて、美月を寝かせる。

小十郎に付いておくよう言い残して、政宗は部屋を後にした。


夕方に美月が目を覚ましたと報告を貰うが、どんな顔をして会えば良いのか分からず「よく休むように」と伝言を頼むだけで終わらせた。

しばらく会ってなかったこともあるのか。
もう男には見えない。女なのだ。

先ほど見た、白い肌や、愛らしい唇が頭に焼き付いている。

―会ったら滅茶苦茶にしてしまいそうだ。男としての本能を押さえられる自信がない。




目が覚めた美月は小十郎がそばにいることに驚いた。二人が来たのは願望が見せた夢なのではないかと思ったいた。
そして小十郎に頭を下げる。嘘を付いてて申し訳ない。自分は女なのだと。

小十郎はただ「辛かったな」と言って、「なんと呼べば良いんだ?」とぶっきらぼうな中に優しさを含ませた声で尋ねた。



夜が更けてきた。
しかし、政宗様は美月の部屋には現れない。小十郎様が目が覚めたと伝えておくと言っていたから目が覚めた事は知っているハズなのだが。

―やはり嫌われた。
嘘を長い間つき続けてきたのだから。嫌われても仕方がない。
政宗様は弟として大切にしてくれてたのだから、今さら女と分かってどうすると言うのだ。
今までの沢山の愛情を裏切っていたのだから…。
私は許されないことをしたのだ。

少し泣いてしまったので、喉が渇いた。

泣いた為に瞼も腫れて、酷い顔になっている。

こんな顔では明日、小十郎様に心配をかける。

―井戸で水を汲み顔を洗ってこよう。

足はまだ腫れているが、歩けない事もない。井戸に行くくらいは問題はないだろう。


******


政宗は部屋の縁側で酒を飲みながら、美月の事に思いを馳せる。
―結局、今日様子を見に行ってやれなかった。
「くそっ。」
思わず口に出る。
政宗自身、血の繋がった家族には恵まれていなかった。父親とも上手く行ってはいない。

旅先で助けて拾って来た少年が、自分を頼ってくれて、可愛くて、気がついたらとても大切になっていた。
本当の弟だと思って可愛がってきたつもりだ。

―それが女だった。
美月はなんと愛らしい。

今はまだ幼いが、1、2年後は誰もが振り向くような美女に育つだろう。
手に入れたい。
抱きたいと思ってしまった。

―自分がどうしたいのか分からない。
今の衝動のままに美月を抱き締めてしまうのは簡単だろう。
しかし悠と育んだ時間はどうなるのだ。築き上げてきた信頼関係、家族のような純粋な愛情。

―悩むのは性に合わない。
やりたいならやる。やりたくない事はやらない。
今まで自分の衝動に正直に生きてきたのだ。
イライラと酒を煽る。



何かが視界の隅を横切る。
白い寝着一枚で、美月が足を引きずりながら歩いているのが目に入った。

―何をしてるんだ?
怪我人はおとなしく寝てやがれ。

しかも、そろそろ見張りの巡回の時間になる。
その前をあんな薄衣で歩いたら、何か間違いがおきないとも限らない。

無防備にも程がるだろうと余計にイラつく。

舌打ちを一つして、美月の歩いて行った方へと向かう。
井戸の所で瓶に水を入れ、手拭いを濡らし顔を拭いている。
どうやら、また泣いていたようだ。目のまわりが赤い。
相変わらず泣き虫な奴だ。

足が痛むのか手拭いを足に置き、井戸の縁に座り込んでいる。

おもわず、「おい!」とイラついた声で声をかけててしまった。


******


足が痛い。
部屋から井戸までの距離はそんなにないはずだか、少し無理をしてしまった。

手拭いを濡らして、痛みの元を冷やすが痛みが引く気配はない。
水を入れた瓶を持ちながら部屋に戻るのは少し難しそうな気がしてきた。

井戸の縁に腰をかけ、何気なく瓶を見ると、月明かりで輝く水に自分の顔が映る。醜く切られた髪。まだ腫れが残る顔。
知らず知らずにため息が出る。

―なんて醜いのだろう。
こんな私が政宗様を好きでいる事など許されない。明日にでも暇を頂ける様に小十郎様に頼まなければ。

早く城を出よう。政宗様に嫌われたのだ。会う事も姿を見る事も辛い。

―本当の男児として生まれて来たかった。そうすれば、政宗様の弟になれたのに。


「おい!」
上から声が降ってきた。
政宗様の怒っている時の声。イラついてるのが分かる。

顔を上げなきゃならないのは分かっているが、今の顔を見られるのは嫌だ。
下を向いたまま地面の上にそのまま膝を付き、申し訳ありませんでしたと頭を下げて謝る。
「顔をあげろ。」
更にイラついた声で言われる。

地面に顔を擦り付けるように頭を横に振り、このままでお許しくださいと伝える。
「私は明日にでも出ていかせて頂きます。ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。」
「性別を偽り、騙していて申し訳ございません。」
言葉の限りに謝る。

「Shut up(シャラップ) 黙れ。」
静かな声で言われ、美月は口を閉じる。
上から舌打ちする音が聞こえる。相当怒っているのだろう。
「Stand up(スタンダーップ) 立て。」
と言われた。

下を向いたままノロノロと立ち上がる。
立ち上がったところで、肩を押され、よろける。後ろはさっきまで座っていた井戸の縁だった。ペタリとそこに座り込んだ
思わず政宗様の顔を見上げた。
腰を浮かせようとすると、肩を押さえられ立ち上がらないようにされる。

「足に怪我して、地面の上で土下座なんてするんじゃねーよ。」
膝の下と脇の下に腕を入れられ気がついたら抱き上げられていた。
右手の指で器用に瓶の取っ手を引っ掛け、美月を抱き上げながら部屋へ向かう。

「重いですし、歩けます。」慌てて降ろしてもらうよう訴えるが、相変わらず機嫌の悪い顔で「ウルセーな。軽いんだよ。」と返される。

美月の部屋まで2,3分の距離だが、沈黙の中抱えられ、永遠にも思われる気まずい時間が流れる。

政宗様は足で障子を開け、ズンズンと部屋まで入ってきた。瓶を出入り口に置き、美月を布団の上に優しく横たえる。

上半身を起こし、ありがとうございます。と俯いたままお礼を言う。空気は相変わらず重く、政宗様の顔を見づらい。

続けて本当に申し訳ないと思っていると、今までの裏切りを謝る。
すぐ出ていきます。と頭を下げた。

政宗様の手が伸びてきて顎を掴まれ、無理やり上を向かされる。
「黙れと言っているだろーが。」
いきなり、政宗様の唇が美月の唇を塞いだ。
唇の形を確かめる様に唇を吸われ、舌が唇を撫でる。
30秒程だろうか。初めてのことで息の仕方さえ分からない美月はされるがままだ。空気を求めて顔を引こうとするが、今度は頭を押さえられる。
やっと唇が解放されたときには、肩で息をしなくてはならない程であり、小さな肩が上下に動く。

あまりの苦しさに手を布団の上において少し上を向き大きく息を吸う。
細い首筋、鎖骨が露わになり、少し赤みの射した肌。苦しさに潤んだ瞳が上目使いで政宗を見上げ、少し開いた口元。
そして少し乱れた寝着。
白い肌。

政宗様がジッと無言のまま美月を見つめてきた。怒っているのであろうか。

「政宗様?」何が起きたか分からない美月は少し首を傾げて問いかける。

政宗様が上から圧し掛かっててくる。堪らず布団に倒れこんでしまう。

「離さねーよ。」
また唇が重ねられる。今度は少し開いていた唇から、政宗様の舌が口の中に入ってきて、歯の一本一本を確かめるように舌がゆっくりと口内を動く。

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