Gimme Some Truth

□□
1ページ/1ページ

雨綺国へと、美月は一人でたどり着く。

国交はすべて尾張の国を通しているそうで、大きな門が閉められていた。
小さな国だったが、今では町の様だ。

人が入ることも無ければ、出ることもできない。
牢獄のような町だ。


光秀の侍従が、門番へ開けるように命じると重そうな門が軋んだ音を立てながら開く。


門の向こう側は、かなり寂れてしまっているが、昔と変わらぬ美しい田園と、小さな家が立ち並ぶ。

人口もかなり減っているようだ。

3年前の戦争でかなりの人数がなくなったんだろう。

大きな屋敷や、商店は無い。

ただ、農作業や、工芸品を作るためにだけ生かされている工場のような国。


発言力のあった大店の商人。
武器を持って戦える武士。
寺小屋の先生。
邪魔だったんだろう。

良く行った、雑貨屋、薬屋、反物屋…店すら残っていない。
ここには寺小屋があって、幸村とよく遊びに来ていた。
同い年くらいの子供も多くいて、遊んだものだ…。
ココにあった薬屋には母上の薬を取りに来ていた。

奥には武家の屋敷が続き、その奥の山の麓に美月の住む城とは名ばかりのような大きな屋敷があった。
隣には幸村や、幸村の家族、親衛隊の住む屋敷があって…。
その隣には… … …。

思い出が溢れてくる。
まだ薄っすらと瓦礫が残り、そこに何かがあったのだという事だけが分かる。

たった、3年。
いや、3年も経ったのだ。

もぅここは雨綺国だけど、雨綺国ではない。
根本がなくなっている。

楽しかったあの時代。
はしゃいで過ごした祭りの日。
灰色の塵が積もって、全てを覆い尽くした。
全てを無くなった、
想い出はもう思い出になってしまった。

また、美しい国があるのではないか。
そんな期待は打ち砕かれた。

1人ぼっちになってしまった。


******


「美月姫??」
声を掛けられる。

30歳前くらいの男だ。
会ったことは…ある。
すぐに名前が思い出せない。

「我は源太郎です。
今は雨綺国の管理を任されています。」

…あぁ…。
幸村の異母兄弟。
妾の産んだ子供だと聞いた覚えがある。

確か、入城が許されてなかった。
だから記憶に薄い。

身分の差と言うものは好きではないが、彼の母が何か罪を犯していて…隔離されていたのではなかったのだろうか。

そぅ、魔具の封印を解こうとしたのだ…。


「光秀殿から伺ってます。
美月姫は我が預けさせていただく。」

城の跡地とは逆方向に進む。

大きな屋敷が一つ立って居る。
彼の屋敷の様だ。


にしても…と横目で見られる。
「その小汚い恰好はなんです。
髪も短い。男の恰好。
何をしているのです。」

屋敷に入ると、女中が呼ばれ
「綺麗に整える様に。」
と冷たく言い放ち去っていく。

女中は美月より少し年上の20歳くらいの娘。

「まさか…。
美月姫様?
ご無事でございましたか…。」
「お春?
無事だったのね。
私、城下を見て。誰もが笑顔も忘れて…。
農作業だけをしている姿を見て…。」
もう誰も知っている人は居ないのではないかと…。
皆、楽しかった記憶など無くしてしまったのではないかと。
思ってしまった。


お春は、寺小屋で皆のお姉さん的な娘だった。
よく悪戯をする幸村を叱りつけていたものだ。


風呂に浸かり、体を清められる。
光秀に付けられた傷はまだ生々しく残っており、お春を驚かせ、怒らせた。
「女子の肌に、縄の痕。
これは叩かれたのでございますか?
なんと、痛ましい…。」

口付けの後には触れないでいてくれる。

今はそんな傷にこだわっている場合では無い。
お春が居たのだ。
まだ、生きている仲間も居るのだ。

本当の雨綺国を見つける。
取り戻さなくては。


用意されたのは、姫の衣装。
沢山の色とりどり布を使い、裾にはふんわりと白い透かしの模様が入っている。
洋物のレースという物だ。

狩衣が良いなどと言ったら、さっきの男にまた呆れられるだろう。

春が怒られるかもしれない。


一体何枚重ねなのだ…。
ずっしりと圧し掛かる、正装を黙って着る。

髪は短いので結えない為、そのまま軽く整えるだけだ。


― 多分、彼がこの国を光秀に売ったんだ。

確信する。


源太郎の部屋へ通される。
彼が上座、美月が下座だ。

これは今の立場を表わしている。

「少し、綺麗になりましたね。」
雨綺国の姫君と言う自覚を待たなくてはならないと言われる。

「私は先ほど恰好で国とは何か、人とは何かを直に学んできました。」
ここは国とは言えない。
尾張の食糧と、資金を賄う為の工場のような所は国とは言えません。

強く言う。

奥州も、甲斐も、もっと…活気があった。
皆が、政宗様を好きだった。
信玄公を尊敬していた。
日々を楽しんでいた。

「口の聞き方に気を付けなさい。
私が領主です。
美月姫。
貴女は私の妻となり、私はこの国の領主となる。」
本当は3年前に光秀に捕まえる様に言ったのに、逃がしてしまったから…と。

「私は、お前などと結婚などしません。」

「今晩、祝言を上げる。」
女など付属物が何を我儘を言っているのだ。と責められる。
ただこの国の正当な後継者と言う肩書が付いているだけの女が…と。


******


神社へ向かう。

お春には、領主の娘として帰還を龍神へ挨拶へ行ってくると伝えてきた。
付いて来るという、彼女らを「1人になりたい」と無理をいって置いてきた。


光秀が来る前に、魔具を私が手に入れよう。

この国を腐らせているのはあの男だ。

力で全てがどうにか出来るわけではないが、力で何とか出来るものもある。


神社の鳥居の前に着く。
入口には大きな水神、龍の銅像が建つ。

戦で少し痛んでいるようだが無事だ。

そっと、龍のもつ宝珠に触れる。

雨綺国の姫は龍に仕える。
もともと、守り部の巫女の家系だ。

「龍神様。
お久しぶりでございます。美月です。

私は、現の世界の龍を愛してしまいました。」
目を瞑って、語りかける。
目の裏に思い浮かぶのは、隻眼の蒼き人の姿をした龍。

「こんな私には、龍神様に仕える資格はないかもしれません。
でも、力が欲しい。
力を貸してください。」

ソッと龍神像の右の瞳に手を沿える。
政宗様と同じ側の瞳。

政宗様が助けに現れてくれたのは、龍神様のお導きがあったからこそでは…ないかと思う。

右目に埋め込まれた、蒼き石が外れる。

キュッと握りしめて、神社の裏手にある、湖へと向かう。


小さな祠がひっそりと湖の中に立っている。
周りに橋などい。

長くて邪魔な、裾を持ち上げる。

湖へ足を沈める。

深いはずだが、龍神の加護を持っている美月は踝辺りまで水に浸るだけで、それ以上は沈まない。
水が道を作ってくれている。

祠まではすぐ辿り着いた。

小さな龍の置物がある。

蒼い石をその龍の手に乗せる。
そして口で自分の指を噛み切り、血液を石の上に垂らす。

蒼い石が輝く。

奥の岩が音もなく開く。

安置されているのは一本の脇差。
こんなものの為に、どれだけの犠牲が出たというのだ。
悔しくなる。


水龍刀。
水を操る刀。

鞘から刀を出してみる。
刃がない。

≪刃よ…顕れよ≫

湖の水が刀身へと姿を変える。

刀を上から下へと振る。
水滴が、飛ぶ。
一粒、一粒が細かい刃となり飛んでいる。

水の刀。

私はこの刀を使いこなせるだろうか…。

着物の合わせに隠す。


昔、この魔具が封印される前。
雨の中、この力を使った者が居たという。
雨は全てが刃となり、無差別に人の命を奪ったという。
味方も敵も…。
術者自身も、雨の刃に打たれ死んだ。

水に、力を与える刀…。

何事もなかった様に、源太郎の屋敷へと戻る。



連れて行かれたのは源十郎の部屋だ。
「龍神に挨拶はできたのかい?」

女は神仏に縋って泣くくらいしかできないと思っているのだろう。

「さぁ、私の妻に…。
来なさい。」
着物の上から腰を撫でられる。

「悪いけど、お前の妻にはならない。
私は、龍の妻になっているのですから。」

水龍刀を構える。

源十郎も刀を構えるが。
「女がそんなものを持つのではない。」
さぁ、離しなさいと言う。

女でも、国を治めることはできるわ。
刃を振り、水滴の刃で攻撃をする。

腕前も、政宗様に稽古をつけてもらっているのだ。
水滴の刃に源十郎が焦っているうちに
、脇腹を裂く。

刃の水が血を吸い、赤く濁る。
湖の水だけだったときは澄んで、清らかだったのだが…。

源十郎が足もとで悲鳴を挙げ、のた打ち回る。
穢れを持った刀が、命を奪えと訴える。
このまま心の臓に刃を突き立ててしまえと。

悲鳴を聞きつけた家臣が現れる。

「この男は逆賊だ。
我が雨綺国を、織田に売った上に、国を滅茶苦茶にした。
正当なる領主の私を穢そうとした罪は重い。
地下牢に入れておきなさい。」

一緒に光秀の部下たちも捕える。


「美月姫!」

「私が今日から領主である。
従いなさい!」


雨綺国の復興を!!!


******


信長と光秀は本能寺に居るそうだ。
織田が連合軍に追いつめられているらしい。

どうりで雨綺国へも来れないはずだ。

政宗様の安否はまで新しい情報はないが、ご無事であると信じている。

少し活気を取り戻した国。
上を向くと木漏れ日が降り注ぐ。

遠くの空の下に居るだろう政宗様に恥ずかしい国にするつもりは無い。

武家の者は殺されてしまっていたが、若い男衆が自衛団を作り、国を守る活動をしてくれている。


美月は少年の姿で、馬に乗る。
本能寺目指して走る。

織田を滅さない限り、また繰り返される可能性があるのだ。
いま自分が出来ることをやりたい。
連合軍の力になれるなら、なりたい!!!


「ここが本能寺。」
燃えている。

まだ戦が始まった感じはしない。

入口に立つ、長い白銀を風に遊ばせながら笑う男がいる。
「…光…秀?」

「美月ではありませんんか。
あの男ではやはり役不足でしたか。
封印を解いたのですね。」

狂気の中で笑い声を上げていた彼が、少し正気に戻る。
美月の手にある、水龍刀を見る。


「何故…?
あなたはやはり、織田軍を滅ぼそうとしていたの?」

「…気づいていたのですか?
信長公を斬ってみたかったのですよ。」
最強と言われる人間を、斬り殺す。
最高にゾクゾクする、と言う。

― なんで火を放ったのだ。

美月解った。
お市様を護りたかったのか…。

長政殿が戦死したと聞いた。
市様はどうなるのだろう。


「でも…。
私は光秀!お前を許さない。
故郷の皆の敵を取る。」

しかし、光秀はフラフラと本能寺へと入っていく。

「待ちなさい。
私と勝負しなさい。」
飛沫の刃を飛ばすが、軽く風圧でいなされる。

本能寺の中へと光秀を追いかけ進む。

「信長公。まだご無事でしたか。」
「我がこの程度で死ぬと思うたか。」
信長と光秀の戦闘。

次元が違う。

しかし、ここでこの二人を諦めるわけにはいかない。
≪雨よ…。刃へ…。≫

雨が槍の様になり、二人に向かって飛ぶ。

信長の銃が火を噴く。
水の槍は蒸発。

爆風が立つ。

「きゃ…っ。」

壁へと叩きつけられる。

顔の脇に、弾が3発ほど飛んでくる。
「光秀。
この小物はなんだー。」

「関係の無い、子供でしょう。」
「そうか、では死ね。」
弾が光秀の風圧で逸らされる。

「関係のない…のではなかったのか?」

美月はなんとか立ち上がり、水龍刀を構える。

「私自身が殺したいのですよ。
信長公、貴方を食べさせていただきます。」
光秀の桜舞が嫌な光を放つ。
血を吸わせ続けた魔具はああなるのだろうか。

美月はどうしたものかと思う。

本能寺には、連合軍が辿りつたようだ。

光秀が撃たれ、壁に激突する。
銃身の狙いを定める信長。
何も考えず、飛び出す。

水の刃は、銃身を切り裂く。
「面白い刀を持っているな。」
新しい銃に持ち替えながら、腕を掴まれる。
「あぅ…っ。」
銃身が美月に向けられた。
撃たれる!!!

紅い風が美月と信長の間を吹き抜ける。
「美月姫!
何故こんな所に。」

美月の体は飛ばされるが、力強い腕で抱きとめられる。

「…政…宗様。
ご無事で…。」

「当り前よ。
人の心配よりも自分の心配してろ。」
そっと腕から降ろされる。

「私も闘います。」
立ち上がって剣を構える。

いきなり、政宗様に腹を殴られれる。
「もう、お前の好きにはさせねー。
俺は2度と後悔するきはねーんだ。」

「…っあ、あっ…。」
意識が遠くなる。
わりーな。と言われた気がする。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ