中編(文)
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「政宗兄様と一緒に居たい」
瑞貴は涙を流しながら言った。
「瑞貴の泣き虫。
泣き止めよ」
政宗は困ったような顔をして瑞貴の頭をポンポンと撫でながら言う。
「泣き虫じゃないもん。
だって、行きたくないの」
ひしっと政宗にしがみついて、離れないと意思を示す。
瑞貴は十代前半の少女で、華やかな子供用の着物を着ていた。
愛らしい幼い顔の大きな黒い瞳には涙がたっぷりと溜まっている。
政宗は15歳。
まだ、あどけなさの残る少年だった。
しかし片方しかない目は世界を斜に見るような大人びた冷たい瞳をしていた。
瑞貴は三年前に親を無くし孤児となった。
遠縁の伊達家に引き取られてから政宗を兄と慕い過ごしてきたのだ。
養女として引き取り先が決まり、伊達家を去らねばならない。
「大人になったら、迎えに行くから」
「……ぅん。
瑞貴の事を忘れないでね」
「俺の妹は瑞貴だけだ。
忘れるわけねぇだろ」
腹違いの異母弟妹と仲の悪い政宗は、常々瑞貴が本当の妹だと言っていた。
「困った事があれば、俺が助けてやるから連絡しろよ」
政宗が瑞貴を力強く抱きしめて言った。
大きな瞳から涙を溢れ出させる瑞貴を養い先の使用人が引き摺るように連れて行く。
政宗へと必死に伸ばされる小さな腕を掴むだけの権限はまだ政宗は持っていなかった。
……。