中編(文)

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「織田をくだす為に同盟をしようと思う」
政宗が、宣言するかのように言った。


一瞬、耳を疑う。

自尊心の強い政宗が他者と同盟を組むなど考えにくい。
瑞貴は大きく目を見開いて、じっと政宗を眺める。

弱気になっているようではない。
むしろ、闘争心がたぎっているかのような強い眼と目が合った。

政宗の輝きは更に増すかのようだ。


「まぁ、同盟なんて言っているが全員で総攻撃をかけるだけさ。
俺が一番に信長の首を取ってやる」
楽しげに眼を輝かせている。

「それは楽しいの?」
口から疑問が零れる。

「誰が最初にゴール出来るかのゲームみたいなものだ」
政宗の中では生きる事、闘う事全てがゲームの様だ。

「ふーん……」
人の関わりなど興味はない。
信長を倒せる確率が上がるなら嬉しい事だが……。

「勝つのは俺だしな。
アンタもゲームを楽しみな」


「私はあまり人とは関わりたくない……」
そんな意見は無視された。

「アンタに会わせたい奴がいるんだ。
甲斐の真田幸村って言う変な奴だ」

「政宗よりも変な人間なの?」
そんな人間が居るのかと不思議に思う。

「アンタ、俺の事を変な人間だと思っていたのかよ」

「普通は私に怯えたり、避けたりするものよ」

「弱いしな、アンタは。
会わせる奴は俺と同じくらいの腕の持ち主だぜ」



「闘うことばかり……ね」
瑞貴は呆れた声をだした。

「まぁな。
明日出発するから用意しとけよ」




*********




誰もいない夜の庭。
木に背中を預けながら、空にポッカリと浮かぶ細い月を見上げる。

溜め息が漏れてくる。


明日は陽の高いうちから、馬に乗って走らなければならない。


重く溜め息を吐きつつ政宗の部屋の方を見る。


明日早いと言うのにまだ灯りが点っている。


気が付くと、唇を撫でていた。

ただ一度、重なった唇が熱を持つ。
愛おしげに見つめられて、撫でられた頬がまだ熱い。



嘘つきで、狡賢くて、卑怯な人間達とは違う。
誇り高き獣のような『人間』。

短い命を、燃やし尽くさんばかりに輝かせて生きる『人間』。




「なんで人間なのよ……」
呻くように呟く。



まるで、政宗の三日月のような月だと思った。

行き場の無い想いが胸を締め付ける。
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