中編(文)

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「助け、て……誰かっ」

気が付いたら知らない場所。
ビルも家もない。
だだっ広い草原に座り込んでいた。

恐い顔の着物を着た人達に追われていた。


今日は入学式だったはずだ。
さっき転んで、真新しかったセーラー服があっという間に泥まみれになった。



――なんで、何で……分からないよ。

でも、逃げなければ……それだけは本能で感じた。



「痛っ……」

誰かが投げた石が身体に当たった。
ピリッとした痛みが走る。

足がもつれて、倒れた。
口の中の血と土の味が気持ち悪かった。


追いかけて来た着物姿の男達に取り囲まれた。

彼らの手には日本刀のような物が握られていて、何に使われるかは簡単に想像出来た。

――嫌だ……死にたくない。

しかし瑞貴の足は動かない。
ただ怯えた顔で男達を見上げるだけ。



――もう駄目だ……。


瑞貴が絶望と共に目を閉じて、全てを諦めた時だった。


「その“鬼”はこの俺、伊達政宗が貰っておく」

大きな声ではない。
それでも、この喧騒の中でよく通る声だった。
それは命令する事に慣れた、人の上に立つ者の声。


男の手が瑞貴の手を掴んだ。
力強い腕に支えられるように瑞貴は立ち上がった。

男の手が顔や髪に付いた土を乱暴に払う。

くいっと、顎を引き上げられ顔を確認するように近付いた男を見れば、なんと整った顔だろう。
右目には黒い眼帯、色素が薄そうな茶色い髪が無造作に伸ばされている。



「っあ……ありがとう、ございます」


「あんた、名前は?」

「……白城瑞貴」

「あんたは鬼じゃない、人だ。
何だってそんな変な格好している?」

「私が人間だって……皆と同じだって、分かるの」

男は少し驚いたように目を見開き、興味深げに瑞貴を見返した。
そして小さくニヤリと笑った。

「“鬼”がそんなにトロいはずがねぇだろ」

「えっ……」

「まぁ取り敢えず、あんたは俺が預かってやるよ」


そう言って手を差し出された。
その手は暖かかった。
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