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□それじゃあ
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最初は、変なやつだとか、そういった感情しか出てこなかったし、ましてや、そいつの親友と俺の親友が恋人同士になろうとは思いもしなかった。
あんな泣き虫に渡したくないって思った。
でも、それは俺だけじゃなくて、泣き虫の親友も、あいつも同じだったんだ。
俺の親友とらないでって。
俺だけの、なんてただの妄言だった。
でも、あいつは、自分なんかより、親友の幸せを優先した。
そこが俺にはよくわからない。
☆★☆
「一乃、帰ろう?」
と、小首を傾げて鞄を肩に掛けると青山は、せっせと帰る準備をしている一乃に尋ねる。
すると、一乃は困ったような顔しながら、青山をジッと、不安そうに見つめた。
(あ、そうか)
こいつ、神童と帰るんだ。
青山ほ直感的にそう、思った。
「えっと…。あのさ……」
しどろもどろしながら、視線をキョロキョロと動かしている一乃に青山はため息をつく。
「はぁ…。いいよ、わかった」
「え…?」
「どうせ、泣きむ…神童と帰るんだろ?」
一乃の顔を見ると、少し赤くなっているのがわかる。
「…うん……」
「…やっぱり。ま、いいや。精々がんばんなよ?」
そう一乃に言い残すと、教室の扉をガラッと開けて、ある場所へ向かう。
このムカムカした気持ちを落ち着かせるには、あそこが一番だろうから。
☆★☆
「へぇ〜…。お前、一人なんだ?」
と、ニタニタと笑いながら、子猫を手で転がすようにくすぐってやる。
すると、ニャー…と、甘えるような声を出すと、ゴロゴロと霧野の足元に子猫がすり寄る。
「…………」
もちろん、さっきの言葉は猫に言ったのではなく、目の前で物珍しそうにこちらを見ている人物、青山に、だ。
(なんでこいつが……)
ここなら、誰も来ないだろうと思い込んでいたのに。
こんな、人気の少ない、学校の裏なんかに来る奴なんていないと、ましてや、霧野が来るはずがない、と。
「…で、お前さ、一人、なんだろ?」
一人、をわざわざ強調した霧野に青山は少しイラっとする。
「…一人で猫と遊んでいるような奴に言われたくないなぁ…?」
…ちなみに、この猫、ちっとも懐かないのである。
皮肉たっぷりに相手に呟くと、霧野をジッと見る。
見つめて数秒、やっと口を開いたかと思うと、頭に疑問符を浮かべながら霧野はこう言った。
「? 俺、猫と遊んでたわけじゃないからな……?」
「は?」
訳が分からない。
そういった表情の青山に霧野はクスっと笑う。
「だから、俺は猫じゃなくて、お前を、……一人ぼっちな青山を待ってたんだよ」
☆★☆
「待っている、というか、青山を待ち伏せしてた」
「はぁ…」
青山は呆れたようにしてため息をつく。
一体、こいつは何を考えているのだろうか。
まったくわからない。
待っていた。
なんでだ。なんで待ち伏せしてたんだよ。
「というか、よくここに来るってわかったね?」
「あぁ。だってお前のこといつも見てるし」
「……………………え?」
今、なんて言った。
いつも見てる。
いや、いやいやいやいや……。
「お前が、機嫌悪かったり、落ち込んでたりすると、ここに来るだろ?」
「………」
「だから、ここかなぁ…て。どうせ、今日は神童に一乃とられて悔しいんだろ?」
たしかに、そうだ。
でも、どうしてここまでわかるのだろうか。
本当に、分からないやつだ。
霧野って。
そんなことを思っている青山をお構いなしに霧野は話を進めていく。
「黙ってるってことは図星だな。ま、俺も神童が誰かといるのは嫌だけど…」
「…けど?」
「いつも一人で抱え込んでいるお前を見る方が嫌だなって」
「は……」
霧野のそんな言葉に少しずつ徐々に顔が赤くなっていくのを自分でもわかる。
(恥ずかしいやつ……)
霧野は青山を見て、きっぱりとこう言った。
「だから、お前を待ってた。」
「…………っ」
目を見られてつい、目を逸らしてしまう。
ちょっと、待て自分。
なにをときめいているんだ、相手は霧野だぞ?
「俺は、神童のことも大事だけど、お前のこともほおっておけない。」
「……………そ、うか」
「そうだよ。だからさ、」
俺と、友達になってくれませんか?
お前を一人ぼっちになんてさせない。
いつも傍にいてやるよ。
お前の、隣にいたい。