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□たった一言なのに
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「好きだ」

と、言うのは簡単なことだと思っていた。

たった一言で三文字、それだけのことだ。
しかし、その三文字が中々言えない。

言ってしまえば楽になるだろうに、胸のもやもやはいつまでたっても消えそうにない。


言いたいのに、言えない。


もしも、もしも思いを伝えたら、


泣きそうになる。



君のことが好きすぎて、涙が溢れてくる。


☆★☆

間違いだったな、と神童はため息をつく。

そもそも、こいつに…霧野に相談する時点でだめだ。

「へー…、神童がなぁ……」

さっきからニヤニヤ笑ってばかりいるのだ。




事の発端は数日前。


放課後の教室で

『一乃のことが好きだ』


と、自分にしては勇気を出して言ったつもりだった。

が、当の本人は何を言っているのかが分からなかったらしく、首を傾げてこちらを瞬きしながら見ていた。


ふと、一乃の隣に座っている青山に目をやると、あわれみの様な視線を送りつけられた。



何回言ってもだめなのだ。

まぁ、原因はこちらにもある、というか、ほとんどの原因が自分だ。


何というか、一乃の前になると、好きという気持ちが涙となって溢れでそうになる。





「…泣きそうになるから言えないと?」

「そう…だな」


ぼりぼりとスナック菓子を頬張りながら霧野は神童に言う。

「ふーん…」

食べていたお菓子が無くなると、また別のお菓子の箱に手を出す。

「あ。これ新発売のだ…」

お前も食うか?と未開封の袋を神童に差し出す。

「人の話を真面目に聞けよ…。というか……よくそんなに入るな…?」

先ほど渡たされたお菓子を一口頬張る。


「あー…なんか、うつった」


「…そうか」

誰に、とは聞けなかった。



「で、どうすんの?」

「え……?」

「だ・か・ら!」

バンッと音を響かせながら机を叩くと、神童を見る。

「お前はこのままでいいのか?」

まっすぐな目でそう訴えられる。

このままでいい訳が無い。

気持ちを伝えて、少しでも相手が自分の事をどう思っているか知りたい・

「良くない…」

「だよな」

うんうんと霧野は頷くと思い出したかの様に、ポンッと手を叩く。

「そうだ、良いこと考えた!これなら……」

どうせろくでもない事を思いついたんだな…と多少呆れながらも霧野の提案に耳を貸す。



「相手が自分のことどう思っているか知る方法、それはな!」

自信有り気に目を輝かせながら言った、


「相手を押し倒せば…!」


ほら、ろくでもない事を……


☆★☆


そんな、ろくでもない事を実践している自分がすごい情けない。

「しん…ど…う?」

顔を真っ赤にしながら、目の前の、自分のマウントポジションをとっている神童を一乃は見つめる。


「こ、こうするしか…無いんだ」

「こう、するしかって………?」

「お前の気持ちを知るためには……!」

「え…気持ちって……」

一乃の手のひらに自分の手のひらをキュッと重ねる。

深呼吸をして、一乃のを見る。


「俺は、お前が、一乃ことが好きだ」

「……………」


ポタッと生暖かいしずくが一乃の頬を流れる。

(あ……神童泣いてる)

すぅっと神童の顔へ手を伸ばすと、拾い上げるようにしずくを拭いながら、一乃は微笑む。



「俺も…」



自分の事をこんなに、泣いてしまうくらい思ってくれている君のことが、



好きです。







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