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□大嫌いだよ、
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大嫌いだ、あんたなんて。


絶対に、大嫌いだ。




☆★☆



(南沢さんが、サッカー部辞めるなんて…)

ぽつぽつと小石を蹴りながら倉間はオレンジがかった夕日の下を歩いていく。

(あいつだ、あいつのせいだ…!)

あいつ、松風が馬鹿みたいなことしなかったらサッカーができたのに。
管理されてても構わない。
サッカーが、大好きだったサッカーができるのならば。

本当のサッカーなんて取り戻さなくてもいい。


ただ、もう一度だけ、

(南沢さんとサッカーしたかったな…)

ふと思う、

好きだった先輩のこと。

いつも皮肉ばっかりで、喧嘩ばかりで、それでも好きだった。
頬をつたう塩気の混じった液体が口の中へと入る。

こんな事で泣くなんて馬鹿みたいだ。


初期設定のままの携帯の着信音が肩に掛けていた鞄から鳴り響く。

(……だれだよ)

カパっと買ってもらったばかりの傷一つ無い、真新しい携帯を開く。

ディスプレイに表示されている名前に目を疑った。

まさか、電話が掛かってくるとは。
出ない方がいいのか、いや、出るべきだろう。

会話ボタンを押し、受話器に耳を当てる。


「も…しもし?」


しかし、いくら待っても相手からの返事が無い。

「…? 南沢さん……?」

電話を切ってしまおうか、そう思った矢先、電話の向こうから、声がした。

『…おかけになった電話番号は、電波の届かないところにいるため、出ることができません……』

「は?」

南沢さんじゃないのか…?
いや、この声は南沢さんだ。間違いない。

急にどうしたんだ?

訳が分からず戸惑っていると、また、声が聞こえた。

『ピーという発信音の後にメッセージをお入れください、』

…これは、なんだ。

勝手に喋れということなのだろうか?
まぁ、良いだろう。

すぅっと息を吸って、受話器に思いっきり声をぶつける。

「…南沢さん、なんでサッカーやめたんすか?…いや、まぁ、当然ですよね。あんなサッカーしたくないですよね?」

『………』

「……何も喋らないんですね?」

『………』

一向に相手からの応答はない。

はぁ、と倉間はため息をつく。

「俺、嫌なんですよ?先輩とサッカーできなくなるのが。この際だから言っちゃいますけど、俺…、」

その続きを喋ろうとして口を開くが、こんなこと言うなんてらしくない、そう思い、口を閉じてしまう。




『…なんだよ?』

「へ?」

急な相手からの声に驚き、思わず突拍子もない声を出してしまった。

『……だから、俺、がどうしたんだよ?』



(…………!)

つい、下を向いて黙りこんでしまった。
あの時、自分が言おうとしたこと思い出してしまった。

絶対に、言えない、言わない。


「言っ…たら、俺、死んじゃいますよ……?」


バクバクと心臓が鼓動しているのがわかる。
受話器ごしに相手に伝わるのではないのだろうか。

一刻も早く、電話を切りたい。

『死んでもいいから言え。さもなくば俺が今からお前を殺しにいくけど…?』

早く言えよ、ものすごく馬鹿にするように南沢が言うと、倉間はプツン、と自分の血管がちぎれるような、そんな音が聞こえた。

「…わかりました!言えばいいんすよね?言いますよ、言ってやりますよ、…俺は、南沢さんとサッカーできなくなるのが嫌です。嫌なんですよ、好きな人とサッカーができなくなるのが。大嫌いなのに!」


荒くなった息を整え、まだ会話状態が続いている携帯を耳からはずし、思いっきりボタンを押し、強制的に会話を中断させる。


少しの間、立ち尽くしていると後ろから、さっきまで聞いていた声がする。

「倉間…、」

その声が、誰なのかは分かってしまった。
足音が段々近づいてくる。

来るな、来るな。

「言いたいことはそれだけかよ……?」


「………っ…!」




あーあ。

せっかく買って貰ったばかりの携帯、汚しちゃったじゃないですか。

これって濡れても大丈夫なんですかね…?




大っ嫌いだ。

あんたなんか、大嫌いだ。




それでも、何故だか、


好きなんですよ…?


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