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□少しくらい
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チャイムが鳴り、さっさと帰路へ着く者がいれば、まだ残って友人や先生と話し込んでいる者もいる。
大抵は、部活に行く奴らのあつまりで、今日の練習はどうとか、そう言ったことを喋っている奴もいて、少し前までは自分もあの中に入っていたなぁ…と思い、隣にいる彼を見る。

(まだこいつ未練があるのか…?)

サッカー部を辞めてからも、放課後になると教室からグラウンドを眺めて、サッカー部の練習を見ている。

無意識、なのだろうか。

一乃、と呼ぶと相手はビクッと体を震わせながら、こちらを見る。

「な、なんだよ…?」
「いや?また、見てんのかなぁって思って」
「また……?」

首を傾げている一乃に溜息をつき、先ほどまで一乃が眺めていたグラウンド、サッカー部を指さす。

「アレ、見てたんだろ?」
「あ…あぁ…」
「まだ、未練があるんだ?」
「! そんなわけ……!」

ない、と首を横に振り、「早く、帰ろ」と言いながら自分の鞄を持つとさっさと教室を出ていってしまった。


(やっぱり…未練あるじゃんか?)

☆★☆

ガリっとアイスキャンディーをかじり、先ほどから不機嫌そうに自分の前を歩いている一乃を見る。

「…一乃?」

「別に、未練なんてないから」
「……うん、わかってる」

素直に青山はそう告げると、一乃はバッと青山の方を振り向く。

「は? お前、さっきから、未練があるとかどうとか言ってた癖に…!」
「…そうだけど?」
「お前って本当に意味わかんない…」

そう、うなだれている一乃をなだめるように青山は、「食べる?」と食べかけのアイスを一乃に向ける。
一乃は少しためらうが、パクっと一口かじる。

「……冷たい」
「そりゃそうだ、アイスだし」
「…………しょっぱい…」

「え? そんなわけ…?」

俯いている彼を下から覗き込むようにしてみる。
すると、何かが下へ落ちたような気がして、ふいに下を見る。

(あ…)


ぽた、ぽたと道に黒っぽいシミがいくつか出来ていた。

「一乃? 泣いてる??…ねぇ?」
「…っ…そんな、いちいち聞くなよ、意地悪」

「だって、泣いてるから」

「泣いて、ないし…っ」

嘘だ、と青山は目を赤くしている一乃を見る。
手でその涙を拭いながら、淡々と一乃に尋ねる。

「なんで冷たいんだろうね?」
「アイス、が冷たいから」
「アイス?なんで?」
「青山が、一口くれたから、それ、食べたから」


「じゃあ、なんでしょっぱいの?」


ぴた、と青山の手が止まると一乃はなにか言いたそうに口を閉じたり、開いたりして口ごもっている。

「……から、」

「聞こえない」

「俺が、泣いてるから」

ゴシゴシと一乃は袖で自分の顔をこすり、青山をジッと見て、微笑む。


「意地悪。それぐらいわかってるだろ?」



「うん、わかってる」


わかってるよ、大好きな君のことくらい。


だから、意地悪したくなる。

少しくらいなら意地悪したっていいよね?


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