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□わかんない
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自動ドアを潜り抜け、冷房の効いたコンビニの中へと二人して入る。
昼食をまだ終えていない霧野は、何を食べようかと弁当が並べられている場所へ行き、適当に一つ取る
「霧野、こっち来て」
「ん?…ちょっと待てよ」
そう返すと霧野は弁当を片手で持ちながらアイスボックスの扉に手を当てている青山へと近づく。
なんだよ、と霧野は扉越しに無造作に置かれているアイス類をまじまじと見つめる。
「あれあれ、」
食べない?と青山が指を指しているのは、二つに分かれるタイプのアイス。
「いいけど…。お前、いくら持ってんの?」
「……70円?」
霧野はそのアイスを手に持ち、表記されている値段を確認し、もう一度青山にさっきと同じことを尋ねる。
「いくら持ってるんだっけ?」
「…70円」
「これの値段は?」
「150円…」
ガラリと霧野はアイスボックスの扉を開け、アイスを何事も無かったかのようにして元の位置に戻す。
そして、ジュース等が並んでいるコーナーへと行き、お茶を一本取り出すと、先ほどから自分の事を凝視している青山の横を通り過ぎ、レジへと向かう。
「なんで戻したの?」
ガシ、と青山は行く手を阻むようにして霧野の肩を掴む。
「…だってお前、お金足りないだろ?」
「二つに分かれるから…」
「割り勘したとしても俺の方が10円多く払うことになるだろ」
「………えー…ケチ」
ふて腐れている青山を余所に、霧野はさっさとレジへ向かい、並びながら順番を待つ。
すると、隣からくすくすと笑う声がし、何かと思い、そちらの方を向く。
その正体は、自分とは違うレジに並んでいるおばあさんで、目が合うと自分を見てニコニコとやさしそうに笑う。
「仲のいい恋人さんだねぇ…」
そんなおばあさんの一言に霧野は驚く。
恋人というのは、ほとんどが男と女のそういう関係のことで、相手が女ならまだしも、一緒に喋っていたのは青山だ。
青山は、どこからどう見ても男で、ということは……。
「あ、あの…俺、男…ですよ?」
少し、声を震わせながら霧野は言う。
すると、あらあらと口に手を当てながら「ごめんなさいね」とおばあさんは謝る。
「いや…大丈夫です」
霧野は苦笑しながら言う。
少し視線を感じ振り返ると、自分が戻したはずのアイスを持っている青山がこちらを見ながら必死に笑いをこらえている。
結局、10円分多く払うことになった。
☆★☆
「まぁ…霧野はパッと見、女に見えるしね」
公園のベンチに腰かけ、そう言いながら青山はアイスの袋をあけると中からアイスを取り出す。
パキっと二つに分け、片方を霧野へと渡し、自分はもう片方を食べる…というよりは、飲むと言った方があっているだろうか。
「…だよなぁ、さっきの」
霧野はため息をつきながら渡されたアイスを口へと頬張る。
「…俺、そんなに女々しく見えるか?」
自分を指差しながら隣でアイスをもくもくと食べている青山を見る。
青山は、アイスを食べる動作を止めると、少し考え、霧野を見る。
「全然?むしろ、かっこいいと思う」
「………そっ…か」
霧野はそう返すと、食べ終わった空のアイスの容器を空気を入れたりしながらべコベコと膨らましたり凹ませてみたりする。
ゴミとなったアイスの容器をベンチの横に置いてあるゴミ箱へ抛りなげ、隣にいる青山をちらりと横目で見る。
(かっこいい…か)
一体、どこがかっこいいのだろうか?
さっきだって、コンビニで女と間違われたりした。
容姿が良いとは結構言われるが、大体が「綺麗」だとか「可愛い」だとか、女子に言うことばかり言われる。
「かっこいい」って言われることはあまり無くて。
ましてや、隣にいる青山にこんなこと言われるなんて初めてで。
なんというか、珍しい。
ボーっと考え事をしている自分の頬にいきなり冷たい感触が伝う。
その冷たさに思わず退いてしまい、瞬きをしながら霧野は青山を見る。
「……冷たいんだけど?」
「そりゃ、アイスだもん」
当たり前だろ?と青山は首を傾げると、容器の約4分の1くらい残っている自分のアイスを霧野へと差し出す。
「え…?」
「10円分。借りとか作りたくないからあげる」
「あ、あぁ……ありがと」
戸惑いながらもお礼を言うと霧野はそれを受け取る。
青山が口をつけていただろうアイスの飲み口をジッと凝視する。
(これ、さっきこいつが食べてたんだよな…)
ちらちらと飲み口と青山を交互に見ている霧野に青山は口をむ、と尖らせる。
「…なに?俺の食べかけは嫌なの?」
「…いや」
「早く食べなよ。溶けるよ??」
「食べる。食べるけど…」
(変な霧野……)
青山は霧野の持っているアイスを見ると、何かを思い出したのか、顔を真っ赤にする。
その顔を手で覆うようにして隠すと大きなため息をつき、呆れたようにしてまだ赤い顔を霧野へと向ける。
「バッッ…カじゃないの?俺が、食べてたからってそんな……間接キスくらい…男同士なんだしさ……気にすんなよ」
「だ、よな……」
釣られて霧野も少し顔を赤くすると溶けかかっているアイスを口いっぱいに頬張り、ゴクンと飲み込む。
「甘い…」
「…あっそ」
頬杖をつきながらそっぽを向いている青山を霧野はまじまじと除きこむ。
(あ…顔真っ赤)
たぶん、先ほどからこちらを見てこないのはきっと顔を見られたくないのだろう。
そんな青山に霧野は顔を緩めると、照れくさそうに微笑む。
「なに見てんの…?」
視線に気づいたのか、振り返った彼と目が合う。
なんでもない、と笑うと「ふーん」と興味無さげに返される。
「…霧野さ、俺のどこがいいの?」
「え…」
青山からの唐突な質問に霧野は焦る。
どこがいい、ということはどこが好きかってことで。
気づいたら、好きだったし、一緒にいるようになった。
……どこ、が好きなのだろうか
先ほどからこちらの様子を窺うようにして見ている青山と視線が混じり合うと、金縛りにあった様になり、動きが取れなくなる。
「えー…と、全部…かな?」
「具体的に」
「具体的にか……」
霧野は後頭部をガリガリとかくと困ったように笑う。
「俺は、お前のこと好きだよ。どこが、とは言えないけど」
「………まぁ、俺もなんで霧野といるかわかんないけどね…」
「お互い様だな」と青山が言うと「そうだな」と霧野ははにかむ。
「帰るか…」
すくっと霧野は立つとおもむろにベンチの隅に置いてあったビニール袋を取る。
「それ、お昼ご飯…?」
「ん。そうだけど?」
「あーあ。俺もなんか買えばよかった」
と、霧野が持っているビニール袋をあさり始める。
ピタ、と手の動きを止めると、ガサガサと音を立てながらビニールに包まれた三角形のおにぎりを取り出す。
「…弁当だけじゃなくてコレも食べるの?」
おにぎり片手に訝しそうに自分を見つめる青山に霧野はポン、と手を頭に乗せる。
「それ、青山の」
「…は?」
「どうせ、昼まだだろ?」
だから、と霧野は青山の手からおにぎりを取り、袋へとしまう。
「…一緒に食べようかと思ってさ」
青山は少し俯くと、「ありがと」と呟く。
「早く帰ろうぜ。俺、腹減ったし」
「うん。俺もお腹空いた」
君といる一緒にいるときとか。
変に素直なとことか、
やさしいとことか。
そーいうの全部ひっくるめて好きなんだろうね。
…たぶん。