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□無理じゃないかもしれない
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!「絶対に無理 」の続き



あのとき、自分に勇気があったら今とは違っていたかもしれない。


たしかに、あいつの言うとおりだ。

「駄目なやつ」

だと自分でも思う。

でも、好きな人の前でくらいはかっこつけてもいいだろ?

☆★☆

春休みに入ると、サッカー部にはファーストとセカンドの新たなチーム発表がある。
その時に、ファーストのキャプテンによりセカンドのキャプテンの発表があった。
周りの反応はいろいろで、受け入れてくれる人もいれば批判してくる人なんかもいる。

そんなセカンドのキャプテン・一乃は気まずそうに俯く。



監督がこれからの予定を部員全員が真剣に聞いている中、一乃は自分と大分離れた位置に座る神童を見つけ、彼の行動を一つ一つ観察する。



(あ…落とした)

何かメモでも取っていたのだろうか。
神童が手にしていたシャープペンシルはころころと床を転がっていく。

それに神童はすぐ気づくと拾おうとしゃがむようにして手を伸ばす。
指先に何度かあたるものの、どうやら掴めないらしい。

神童が思い切って手を伸ばすも、そのせいでペンはさらに遠くの方へと転がっていった。

(あーあ…)

ペンが手元に無くなり困っている神童を呆れながらも一乃は頬杖をつきながら見守る。

「……一乃?」

ふいに名前を呼ばれ、一乃は隣に座っている青山の方を向く。すると青山はむすっとした表情で「さっきから呼ばれてる」と監督を見る。


どうしたとこちらを凝視している監督の視線に耐えきれず一乃は伏し目がちに「なんでもないです…」と呟く。
何か言われるでもなく、そのまま話を進めていく監督に一乃は内心ほっとする。
そんな一乃を横目に見ながらも青山はカリカリとペンを動かす。

「一乃」

小さな声で再び一乃の名前を呼び、
青山は配られたプリントの隅を指さす。

「?」

不思議そうに一乃は指でさされているプリントに書いてある文字(さっき青山が書いた字だろう)を見ると、わずかに目を丸くしながら赤面した。



『神童のことばかり見てるけど 
好きなの?』



☆★☆



部活も終わり部員全員の帰宅を神童は確認すると自分も帰る準備をしようと、ロッカーから制服を取り出す。


(………誰かいるのか?)

部室には自分以外に誰もいないはずだ。
しかし、なにか視線を感じ、おそるおそる神童は振り向くとそこにいたのは案の定一乃だった。

「なんだ…一乃か」

そうため息をついて言う神童に一乃はム、と口を尖らせる。

「なんだとはなんだ…せっかく待ってたのにさ」

不満そうに言う一乃に神童は背を向けて困ったように笑う。

「ごめんごめん…てっきり先に帰ったかと…」

「は…?なんで…」

すると一乃はさらに機嫌を悪くする。
そんな彼にどうしたものか、と考えているとふいに背中への痛み、というほど痛くはないが、何かが背中にぶつかったらしい。

「! いち、の…」

その何かとは顔をうずくめている先ほどまで不機嫌だった一乃で、するりと神童の腹部へと手を伸ばす。

「あのさ…」

さっきまでとはうって変わった一乃の声色にドキリと脈をうちつつも神童は冷静さを保つ。

「どうしたんだ?…いきなり」

抱きついて、と神童は顔を一乃の方へ向けようとするが、こっち見るなと言わんばかりに一乃は神童の手の甲をつねる。
その痛さに神童は声を出しそうになるが、必死に押さえる。
神童が前を向いたのを確認すると一乃は抱きしめていた手を離し、体を預けるようにして神童にもたれ掛かる。

「…いや…ちょっと不安になった…」
「…不安?」
なにもわかってないなと一乃は神童を見て、少しため息をつく。

「セカンドのキャプテンになった、ていうのもあるけど。それ以上に、お前が本当に俺のこと…」
「俺のこと…?」

わけわからずといった様子で首を傾げている神童に一乃は少し嫌気がさす。
仮にも、恋人同士なのだから自分の言いたいことくらいは悟ってほしいものだ。

一乃は神童から体を離すと、彼の手首を掴んで自分の方へクルリと向きを変えさせる。
突然のことによろけて転けそうになるが神童はそれをしっかりと踏みとどまった。

「神童が、本当に俺のこと思ってるかどうか不安で…。一応、好きな人とは一緒に帰りたい、し…」
「一乃…」
「だから、待ってた。なのに神童全然わかってないからさ」

ぷうと頬を膨らませて言う一乃に神童は内面悪かったと思いつつも彼のその仕草にときめいてしまい、ふわりと頭を撫でる。

「…こんなことされても許さないけどな」
「別にそんなつもりは…」
「いや、冗談だから………って泣くなよ?!」

一乃こそほんの冗談で言ったつもりだったが、どうやら彼の涙腺に触れてしまったらしく。

「…………」

">☆★☆

「…ごめん」

と申し訳そうに謝る神童に一乃は首を横にふる。

「いいよ…だって、神童が泣いたってことはそれほど俺の事思ってくれてた…ってことだろ?」
「そう…かな」
「違ったとしても、俺はそう思ったし」

そう言って一乃はパンパンと制服のよごれを払うと神童を見、「一緒に帰ってくれる?」と彼の制服の袖をきゅっと握る。
顔こそ俯いていたものの、はっきりと赤く染まっていることがわかった。なんだかこっちまで照れくさくなってくる。

「…あぁ、帰るか」


そう言って神童は微笑むと、自然と一乃も顔を明るくした。







このときに、彼の手を握ってさえいれば自分から逃げなかったかもしれない。

どうしてできなかった?


まだ怖かったから。


☆★☆

彼への気持ちが確信した日、ダメもとで自分の思いを伝えたところ、返事こそ曖昧だったが。
なんとか承諾してもらえた。

もしかしたら、セカンドのキャプテンを任せる時と同じくらい緊張したかもしれない。

それから、数日間はなるべく一緒にいて、これといった事はなかったが、自分と彼との距離は縮まったはず。







※ここで終わります※


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