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□感染病
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「よく食べるね」

と、最近言われるようになった。

そんなに食事をとっているわけでもなく、ただ、お菓子を食べる回数が増えただけだろう。
これで食べた分だけ太るような体質だったらショックだが、それは無かった(サッカーで体を動かしているから当たり前か)。


いや、むしろ太った方がいいのは俺がこうなった原因、ではないだろうか?



(あいつ、足とか細いし…)




そんなことを考えながら俺がこんな病気(と例えると大げさだろうか)になった原因のやつがいる教室に行く。





これを治す薬を誰でもいいから作ってほしい。












「あ、おかえり」
そう言ってキャラメルを頬張っているあいつに俺は溜息混じりにこうつぶやいた。
「…また食ってるのか」


どうやら今日も病原菌は食欲旺盛なようでして。


☆★☆



「………」
青山は隣で自分のことを見てくる霧野をジト目で睨む。
「…なんか用?」
「いや、お前さ…細いよなぁーって」
「? ……まぁ、太くはないと思うけど…」
そう言いながら青山はキャラメルが入った箱から、一つ取り出すとぽいと口の中へ放り込む。

「…甘い」

と呟く青山に霧野はそりゃそうだと笑う。

「お前ってお菓子とか食うの好きだよな」
「まぁ…嫌いじゃないな」
食べる?と青山はキャラメルを包み紙から取り出し、それを霧野の口へと押し込む。
「ん…!……聞きながら…押し込むなよ」
文句を言いつつもキャラメルを食べる霧野に青山は言う。
「…おいしいか?」
「なんか…すごく甘い」
顔を歪ませると霧野は鞄から水筒を取り出すと口の中の味を消すようにしてお茶をがぶ飲みする。
そんな霧野をよそに青山はキャラメルをまた一つ頬張った。
「甘い、よな、このキャラメル」
「だよな…お茶飲んでも味残ってるってどんだけだよ…」
やれやれと霧野は肩を落とすと空になったらしい水筒を鞄へ落とすように入れる。
「…お茶全部飲んじゃったの…?」
「そうだけど?」
「なんだ…貰おうと思ったのにな」
青山は溜息をつき、一つだけ残っているキャラメルの箱を見つめる。
「お前さ、それ俺が来るまで一人で食ってたの?」
「……うん」
「は。よくそんな甘ったるいもんを…」
「いや、だってこれさ」
青山はキャラメルを一つ霧野に差し出し彼も条件反射のようにそれを受け取り一瞬嫌そうな顔をしたものの、しぶしぶ霧野はキャラメルを頬張る。
青山はチラリと霧野を横目で見て、彼がキャラメルを飲み込んだのを確認するとそのキャラメルが入っている箱を逆さまにひっくり返すと箱に書いてある表記を確認し「このキャラメル賞味期限切れてるから」と言う。

「…………え?」

「あぁ、大丈夫。消費期限はまだだから」
しれっと言う青山に霧野はつい大声で「人に機嫌切れの食いもん押し付けるなよ!」と怒鳴る。
しかし当の本人はどこ吹く風でゴミとかしたキャラメルの箱を潰すと投げ捨てるようにゴミ箱へほうり投げる。
角にぶつかっただけで入らなかったが。
ゴミ箱に入りそこね、転がっていたキャラメルの箱をひょいと霧野は拾い上げそのまま一点を見つめる。
「……お前、さ」
「ん?」
「俺のこと嫌い?」
妙に真剣な顔の霧野に青山は多少驚きつつも「好きだよ?」と返す。
これは青山の本心だったのだがどうやら霧野は素直に受け取れないらしく(言い方が問題だったのか)、眉間にしわを寄せて青山を見る。
「本当にか?」
「……え?」
「だから、お前が、…俺のこと本当に好きなのかどうか…が」
「本当だけど…」
「………嫌いなもんとか押し付けてくるのに……?」
「…………」
なんだこいつ、と青山は先ほどから様子がおかしいというか、怒っている霧野を見る。
手には少しつぶれたゴミ(さっき自分が捨てたはずのキャラメルの箱)が強く握りしめられている。
はっきりと確認はできなかったが、下を向いている彼の顔はどうやら赤くなっているらしく。

(なんで信じないんだろ…)

青山は霧野を見て一息溜息をつく。ふいにポケットへ手を伸ばすとコツンと指先に感触があった。
取り出すと、銀色の包装紙に包まれている四角くて、少し甘い匂いが漂っている、キャラメルで。

(まだ残ってた……)


指先でコロコロと転がすようにしてキャラメルをもて遊んでいると、顔を上げたらしい霧野と目が合う。

なぜか相手は瞬時に目を逸らしてしまったのだが。


ずっとポケットに入れていたせいで少し溶けてしまっているキャラメルからがんばって包み紙を剥がそうとする。



(……あ。そうだ)


☆★☆

霧野は自分の言ったことを後悔し、しゅんと頭を少し下げる。

言い過ぎただろうか、いや。
別に本当のことというか、モヤモヤしていた事を口に出せてよかった。

青山が自分に菓子類を与えつけるのは今に始まったことではないし、そんなことしょっちゅうだ。
嫌いなものはもちろん、賞味期限切れの食べ物を押し付けてくるのはよくあることで。

何故か、何故か今日だけは嫌だった。


(…そんなには気にしてないけど…)



もしかしたら青山も落ち込んでいるのかもしれない、と霧野はバっと顔を上げるとそこには、まぁ…キャラメルを相手に一方的な睨めっこしている彼の姿があった。
そんなしかめっ面な顔の彼を見ると自然と顔がほころぶのがわかる。

するとふいにこちらを見ていた青山と目が合うと思いっきり目線をそらしてしまう。

こんな顔見られたくはなかったからだ。




「…………きりの」





低めのトーンで自分の名前を呼んだ彼へ恐る恐る顔を向けてみる。

「なんだよ…?」
「霧野は、俺が本当にお前のこと好きか知りたいんだろ?」
「え、あぁ…」

もう気にしてない、と言おうとしたが青山が霧野に言った言葉で消されてしまう。

「だったらさ、俺が……」


青山が言った言葉に霧野は目を見開くとぱくぱくと口を開きカッと顔を一気に赤くさせる。もちろんそんなことを言った青山の顔も(少しではあるが)赤く見えた。




「俺が、お前に…本当に好きって証拠にさ、キス…するけど?」







「え…いや、いきなり……ちょっ」

じりじりとこちらへ近づいてくる青山から逃げるようにして霧野は後ずさりをする。

「俺が、本当に好きって言ってるのに霧野が信じないのが悪いんだろ…」

そう言う青山の目は本気で、逃がすものかと言わんばかりの気迫で霧野に追い詰める。
霧野は霧野で捕まってたまるか、と必死に逃げるが。悲しくも背中に壁がくっついてしまい逃げ場を失ってしまう。

「あ……やば」
「…捕まえた…」
「いやいや!…待てってば!!!」
「……ほら、口開けろよ…」
「待てっ…ん?…口…開け…?」

なぜ口を開かなければいけないのかと霧野は疑問に思ってしまい、それで隙を作ってしまったらしく片方の肩をつかまれると口へ何かが下から押し込まれ相手の指ごと入ったらしい。

何かとは何かがわかるのはそう時間はかからず、甘くて、さっきまで自分が食べていたキャラメルだとわかる。

青山はキャラメルを口の中へ入れると一緒に入れていた自分の指を霧野の口から出す。
すこし彼の唾液がついてしまった指を見ながら「甘いだろ?」と霧野にニヤリと笑う。

「あま……っつか、いきなり何すんだよ!」「今さ、…口の中、すごく甘くない?嫌じゃない??」
「……甘い。この味を消し去りたい、できれば早く」
「うん。だよな、‘今から’消したいよな?」

‘今から’を強調して言う青山に霧野は変に思う反面しまったと自分の言ったことをまた後悔する。

「消すってお前まさか……」

「はい、せいかーい」

彼の行動を理解した霧野は阻止しようと青山の腕をつかもうとするが、つかもうとする前に青山が霧野の腕をつかみ、下へ引っ張るようにして彼の腕をぎゅっとにぎる。

ちょん、と青山からほんの触れる程度のキスをされたかと思うと、ぺろりと自分の唇を舐められる。

「ん…甘いな」

青山は満足げに微笑むと「少しは消えたか?」と自分の指を舐めながら霧野に問う。

「……て…な、い」
「ん…?」
「全然、まだ、消えない。消せてない」

そう霧野は答えるやいなや青山がつかんでいた腕を振り払うと彼が自分にしたようにして腕をつかみ、キスをする。

「きり…の?」

なにが起きたのかわからず混乱している青山に霧野はにっこりと不敵な笑みを返し、こう答える。


「そんなキスじゃ消せるものも消えないだろ?」


霧野は彼をつかんでいた腕を離すとしっかりと
肩をつかむ。

これから自分がなにをされるのか、どんなキスをされるのか察した青山はうろたえながら霧野の肩を叩く。



「は…ちょ…っとま」



「待たない」


















この病気をさらに悪化させるにはキャラメル一個で十分です。

治すには甘いものを食べないことです。

でも無理です。


一生、治らないです。







「(消そうと思ってもさらに甘くなるだけだよな、これってさ)」




……治す気なんて無いですよ、最初から。  


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