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□イタズラするからお菓子ちょうだい?
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「先輩、今日ってハロウィンらしいですよ」
知ってました?と狩屋は自分より一歩先を歩いている霧野をちらりと見る。
「あー…あったなそんな行事」
狩屋の言葉を興味無さ気にかえしジャージのポケットに手を入れながらカサカサと落ち葉を踏みながら歩く。
前を向いたままで自分の方をちっとも見てくれない霧野に狩屋は嫌気が差すとぷうっと頬を膨らます。
「…霧野先輩ひど……」
「はぁ…なんだよ?」
くるりと狩屋の方を向き霧野は不機嫌そうな顔をしている狩屋を見てため息をついた。
そんな真っ直ぐと自分を見る霧野の視線を感じながらも狩屋はわずかに口を開いた。
「……お菓子くれないんですか」
そう言って上目遣いで自分を見る狩屋を可愛いと思ってしまうと霧野はそれを必死に取り払うように首を振り、「持ってないから」と少し強く言いきる。
狩屋はしゅんと頭を下げ落ち込んだかと思うと「ち…ッ」と舌打ちをした。
「あーあ。やっぱりそんな事だろうとは思いましたけど…」
やれやれと狩屋は肩をすくめてみせるとそのまま何事も無かったかのように学校の校門へと向かい歩き始めた。
ぽつんとその場に取り残された霧野は終始ぼーっとしていたが、ふと我に返るとそのまま校門へと走りだした。
「おい、狩屋!待てよ…!!」
校門の手前で名前を叫んでみるもとっくに彼の姿は消えており、盛大にため息をつきながらそのまましゃがみこんだ。

「…霧野先輩?」
「どーしたんですか??」
顔を伏せていた自分に影がかかりゆっくりと顔を上げてみる。
「先輩?」
と不思議そうに首を傾げている二人の後輩の姿があった。




「狩屋!」
机に自分の体を預けうつ伏せになっていた狩屋は自分の名前を呼ばればっと顔を上げた。
そして名前を呼んだ人物を確認するとそのままずるずると再び机に伏せる。空野だった。
「ちょっと…寝ないでよ!」
「……んだよ…」
「もぉー、せっかく用意してあげたのに…」
待ってて、と空野は手に持っている紙袋から女の子らしく可愛くラッピングされた小さな包みを取り出すと狩屋の手にのせた。
「…クッキー?」
「正解!よくわかったね??」
クスクスと笑う空野に狩屋は恥ずかしかったのかカッとお湯が沸騰したような勢いで顔を赤くした。「た、たまたまだからな。匂いで分かっただけだ!」
そんな狩屋の言い訳を「はいはい」と小さい子をたしなめるようににっこりと笑う。
ふいに空野は笑うのを止めると視線を教室の出入口へと向け、「おは…よ…」とぜぇぜぇと息を切らしている二人、松風と西園の元へと駆け寄る。
(なんであいつ等あんな息切らしてんだよ…)

駆け寄ると空野は先ほどの狩屋にしたことを「ハッピーハロウィン!」と言って二人にもする。
「ありがと…!」
「なにこれ?お菓子??」
「うん。今日ハロウィンでしょ?それで…」
狩屋は先ほどから自分のことをおかまいなしに楽しそうに談笑する三人を尻目に頬杖をつく。
「あ!」と松風が思い出したように声を上げたかと思えば駆け足で狩屋の座っている席へと近づく。
いきなりのことに驚き目を丸くする狩屋だったがすぐいつも通りに「どうしたの?」と愛想笑いをする。
「狩屋、また霧野先輩になにかしたの?」
「え…?」
また、という言葉が少々気になるが。一体自分があいつに何をしたのか狩屋は考えた。
すぐ隣では西園が「そうそう!また霧野先輩困らせたでしょ」とまるでリスのように頬を膨らましながら言う。
…おそらく、この二人が言っているのは今朝のことだろう。
(なんかしたか…俺…)
今まで何度か霧野を困らせた自覚は十分にある。
ただ、今日はまだ何もしていない、し。それに会話をしていただけだ。

「うーん…俺なにもしてないけど……」
狩屋が困った様に笑えば二人はきょとんとした表情で顔を見合わせる。
「でも、霧野先輩が僕たちに『放課後、狩屋を捕まえて連れて来い』って。ね?」
「うん。なんか先輩すごい顔してた」
そう言うと松風と西園は二人して狩屋をジっと見つめる。
その視線に狩屋が耐えきれなくなったころ、チャイムが鳴りそれぞれ席につき、狩屋はほっと胸をなで下ろすと朝のHRも上の空で考え事をし始めていた。
(俺まだなにもしてないし…)
してない、というよりは出来なかった、だが。




「神童…聞いてくれ」
「わかった…って霧野、なんか顔がすごいことになってるぞ…?」
「…俺…さ。…今日狩屋を襲うかもしれない」
「ちょっと待て。話がまったく見えない」
放課後の部活道に向けて着替えていた神童は、すっかりユニフォームに着替え終わった霧野に対しすばやくつっこみを入れる。
「いや…だってさ、あいつ…!」
「わかった、わかったから!なんとなく言いたいことは把握した」
ユニフォームに着替えると神童は少し興奮状態の親友に待ったをかける。
長年のつきあいからか彼の思っている事は大体わかる。

「で、今日の狩屋はどうだったんだ」
と神童が問えば霧野は額に手を当て「ウザいのは変わらないけど…」とわずかに頬を紅潮させて言うが。




「そこが可愛かった」



と、女子を魅了してしまいそうな笑顔を浮かべながら答えた。






「正直、思いっ切り抱きしめたいと思っている」
「大丈夫かお前…」
と、そんな親友に神童は肩を落としたのだった。

(だったら、もっと優しく接してあげろよ…)




部活も終わり、本当の意味で放課後がやってきた。

(……全然来ないし、帰りたい…)
いや、むしろ一生来なくていいのだが。
そんなことを思いつつも狩屋は松風から言われた「霧野先輩、帰らないで部室で待ってろってさ」という言葉を律儀に守っていた。
…部活が終わってからどれくらいたっただろうか。
窓から見える景色にはオレンジ色の夕焼けをじわじわと浸食するように紫がかった黒色の空が見え、星もちらちらと輝き始めた。
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