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□チョコレートの魔力
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「…ん?」
すんすんと犬の様に相手の服や顔の辺りを嗅ぎ回りながら青山は「なんか甘い匂いがするんだけど」と相手の制服の袖をギュッと握りしめる。
するとその相手は「…なんでわかる」と苦笑いを浮かべた。
「霧野さ、お菓子持ってる?」
キラキラとした瞳でこちらを見てくるのはさながら犬のようで犬の尻尾のようなものが見えた気がしなくもない。
そんな彼に霧野はカバンの中から小さな、どこか高級そうな箱を取り出して先ほどから期待の眼差しでこちらを凝視している青山に渡してみる。
「…ウィ…、…何かのチョコ?」
まじまじと箱を見つめながら青山は首を傾げるとチョコレートの箱を指差しながら霧野は答えた。
「あぁ、神童が親戚からのお土産だって。で、それはいつも世話になってるからってくれた」
「…なるほど。だからこんな高そうなのを霧野が持ってるわけだ」どこか納得したように言うと、そのままがっしりとチョコレートの箱を抱えた。
「…食べたいのか?」
「え?な、なんで」
「だって離さないから…」
「か、返す…」
「………………」
返す、とか言いながらも一向に箱から手を離さない彼は一体なんなのだろうか。
力をこめて引っ張ってみるもぐぐ…と箱を離さない青山に霧野は(食が絡む時の人間の力ってすごいよな…)なんて呑気に感心しながらも思いっきり箱を引っ張る。
「…あ」
名残惜しそうに手を箱へ伸ばす青山で遊ぶように霧野はほれほれと箱を左右に振ったり上下に持ち上げたりしていた。
霧野よりは一回り小柄な青山は必死に腕を伸ばすが、それも届くはずはなく。ぴょこぴょこと腕を伸ばしてその場を跳ねていた青山は痺れを切らしたのか、霧野が箱を持っている方の腕を強引に掴み、もう片方の手でチョコレートの箱を自分の手に収めた。
「…そんなに食いたいならやってもいいぜ?」
腰に手をあてながらため息をついた霧野に青山ははっと我に帰り自分の手中に収まる箱を見たのだった。




「うまいか?」
「ん、んー…?」
霧野に問われ首を傾げながら青山はクエスチョンマークを一つ浮かべた。
おいしい、とか。まずい、とかではなく。
ガリと噛んだチョコレートからはトロリと苦い液体が出て、よくわからない。
味よりも感覚を優先してしまうような…例えるのなら睡眠不足の自分の頭。
(なんか、おかしいな…)
ぼーと思考回路をぐるぐるとさせ視線をさ迷わせている青山を霧野は変に思う。
「青山…?」
一粒を銀紙から取り出しては食べ、また一粒を銀紙から取り出しては食べ…虚ろな表情のまま壊れた機械のようにそれを繰り返している青山の手から霧野はゴミとなった銀紙を取り、ぐしゃぐしゃになったそれを目をこらしながら見た。
(…これって…まさか)
ちょこんと膝の上に乗っているチョコレートの箱の中から最後の一つであろうチョコレートをおそるおそる霧野は口にした。
ガリと噛めばトロリとした苦みのある、恐らくアルコール。
ガリガリと口の中で噛みながらそのチョコレートが入っていた箱を見た。
「ウィスキー、ボンボン…なのかやっぱり」
ふと脳裏にこんな言葉がよみがえる。
『…ウィ…、…何かのチョコ?』
あの時は気に止めもしなかったが、あの時青山が言いかけた言葉をしっかりと確認するんだった。
「お前、英語苦手なのか?」
霧野は呆れたように笑うと隣にいる眠たそうに目を擦った青山を見た。
「……はぁ?英語…??」
くらくらと頭を揺らしながら青山は意識がはっきりとしないなか、必死に考える。
人差し指を額に当てると「数学…とか…より、は苦手…じゃない…かな?」と語調がはっきりしない様子で応えた。
「ふーん…そうか」
そもそもこれが英語かどうかもわからないし。
霧野は視線を前へと戻すもこてんとぶつかった肩の感触に再度隣を見た。
すーすーと規則正しく寝息を立てながら寝ている青山に霧野は微笑すると、自分の体も預けるようにしてもたれかかる。
ふいに感じた重みに驚いたのか青山はぱちくりと目を覚ました。
「寝てた、俺?」
「おはよ。少しだけな。」
「……そうか」
少し顔を上げれば至近距離で見つめられてしまう彼との距離感に青山は緊張しながらも、おもむろに口を開いた。

「口の中、苦くない…?」

そっと青山から体を離し確かに、と霧野は自分の口に手を当てた。
それを聞いてどうするのか、と霧野は疑問に思ったが彼の真っ赤に火照らしてうつむいている顔を見れば考えていることは一目瞭然だ。


「…そうだな、苦いより甘いのがいいよな」







「(どんなチョコレートよりも甘いのを味わせてあげようか)」
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