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□貴方の腕の中で微睡む
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見上げれば、空は快晴。五月晴れ。
青が一面に広がり、山の方に微かに白が見えるだけ。
いつ以来だろうか。
温もりをこんなに近くに感じて、時を過ごすのは。
彼女…毛利元就は小さく息を吐いて、先程までのことに思いを馳せた。
■□■□■
最近は戦も無く、領内は比較的平和だったが、内政に休みなどはない。
特に今月は新年度が始まったとあり、様々な事を取り仕切らなければならなかったのだ。
そんな中、録に睡眠も取らずただひたすらに筆を走らせていたら…
厄介な相手に見つかった。
「毛利?」
語尾に疑問符をつけ、我の顔を覗き込んでいたのは他でもない西海の鬼その人で。
すぐさま眉間に皺を寄せるや否や、我の手先から筆をもぎ取り文机から引き離すと、縁側へ引っ張っていった。
「何を…」
これを終わらせねばならぬ、そんな抗議の声は唇を塞がれたことによって発せられなくなり、ただ目を見開いて彼の肩へしがみつくしかできなかった。
一瞬とも、永遠とも取れるような口付けの後、彼は静かに告げた。
「─酷ェ顔色してる」
と。
その広い胸板へと抱き寄せられ、成す術も無くされるがままになっ
ていると大きな手のひらが我の視界を覆った。
「しばらく休みな。そんなんじゃ、出来るやつも出来ねぇよ」
そっと瞼をおろすように促され、自然に眠りへと誘われた。
□■□■□
背に、全身に彼の体温を感じながら穏やかな空を見上げる。
「起きたのか?」
元就。そんな甘やかな声が近くから聞こえて、痛む首を無理にねじ曲げて彼を仰ぎ見る。
「顔色も大分ましになったな」
くしゃ。
幼子にするように頭を撫でられる。
目を細めれば、んな可愛い顔すんじゃねぇよ。と額に口付けられて。
「もうちょっと寝てなくて大丈夫か?」
「我はそこまで柔では無いわ」
問われ、何時もの悪態が口を突いた。
「そんだけ言えるんだったら大丈夫だな」
苦笑して体を離そうとする彼の袖を、軽くつい、と引っ張って
「もう少し、このままで」
と請うた。
彼は一瞬、驚いた様に目を見開いたけれど、すぐに
「おうよ」
笑みを浮かべて、我を抱き締め直した。
─嗚呼願わくばこの様な日々が続きます様に。
日輪よ、彼を護りたまえ。
貴方の腕の中で微睡む。
title:剥製
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