Final Fantasy 短編

□時を刻むもの
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冷血無慈悲なアサシン、シャドウ。
彼と目が合えば呼吸が止まり、闇に光る刀を目にした者はその命を落とす。
その名の示す闇の覇者の座から彼を引き摺り下ろそうとする者は数知れず、命を狙われるは日々の常。
そして今もまた、彼は狙われていた。・・・・ある意味、今までで最大の挑戦者に。



じぃっと見つめられている視線を感じつつ、平静に振舞う。
下手に声を出してはいけない。出せば、おそらくその時点で負けだ。

「ねぇ」

相手の先制攻撃。ここはやはり、防御する。

「ねぇ、聞こえてる?」

むしろ聞こえていない方が楽だ。
先ほどからの焦げ付くような視線に強烈な居心地の悪さを感じながらも、黙って相手が引いてくれるのを待つ。
だが、その思いが相手にはさらさら届いていないらしい。

「その懐中時計」
「駄目だ。」
「まだ何も言ってないじゃん!!」

ついに声を出してしまった自分に、心の奥底で舌打ちをする。
聞かずとも分かっているのだ。相手、リルムが自分の持つ懐中時計を見たがっていることは。

「見せてよ!減るもんじゃないし」
「おとなしくスケッチでもしてろ。」
「だから、懐中時計を見せてくれたらすぐにでもいなくなってあげるってば!」

先ほどの戦いの最中、うっかり懐から飛び出させてしまった懐中時計。
運悪くその時計は、リルムの足元に。
そこまでならば、まだ良かった。
何気なしに渡してくれたリルム。だが、その懐中時計をリルムが持っているのを見たシャドウは彼らしくなく動揺し、奪うように取り上げてしまったのだ。
年齢の割りに勘の良いリルムが、そんなシャドウの様子を怪しまないわけがない。何かあるとにらまれ、それ以来ずっと、こんな押し問答が続いているのだ。

「何で見せてくれないの?!何か理由があるんでしょ?!」

なかなか鋭い。
これ以上の問答は無用と、沈黙するシャドウ。

「いいもん、もう!」

おとなしくなったリルムに、ようやく諦めてくれたのかと胸をなでおろす。
だが、画板と筆を取りだし、その画板に自分の姿が描かれ始めているのを見て、シャドウの口の中にため息がつかれる。
シャドウは黙って、部屋を出て行った。リルムが絵を描ききってしまう前に退散するのが正解だろう。
軍配が、最強のアサシンではなく、小さなピクトマンサーに上がる前に。
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