Final Fantasy 長編

□SouthFigaro
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「ポーション5つと、・・・あと、トリの串焼きとエールを。」
「あいよっ!」

フィガロ国の城下町サウスフィガロ。世界が崩壊前から健在しているフィガロ城の城下町だけあって、普段から活気にあふれている。だが、今日は露店が立ち並び、いつもにも増して人々の往来が多い。人里離れた静かな場所で暮らしてきた身にとっては、この雑踏は耳を覆いたくなるほどうるさく、めざわりだ。

「随分、賑やかで。まるで砂糖に群がる蟻みたい。」
店主に当たっても仕方がないと分かっていながら、言葉に嫌味を込めてみる。
「そりゃあそうさぁ! 何てったって、この数年お祭りなんてしてなかったからなぁ。ま、そんな場合でもなかったしな。」
ほら、復興でそれどころじゃなかっただろう、と店主は笑って答える。こっちの積もりつつあるフラストレーションなんて、全く気づいていないようだ。あまり興味もわかず、ふうん、と軽く応えて、腰のベルトに下げたカバンの中から財布を取り出す。つい半年前、世界が崩壊してから1年ぐらいは経済の主流は物々交換だった。久しぶりに開いた財布にはドマやツェン、帝国のコインが入っている。仕事上活動の範囲が国境に縛られていないためだ。とはいえ、いまだにフィガロ以外の国では貨幣価値が安定しておらず、コインなどまだ使えない。
お嬢さん綺麗だからおまけしとくよ、と店主がポーションを一つ多く持たせてくれる。ありがとう、と礼を言うと、がははっと店主が大きな声で明朗に笑った。
「礼なら、フィガロ国王様にしてくれよ! 国王様や弟様、お供の英雄たちがいなければ、こんな平和は出来なかったんだから。
正義の国フィガロに栄光あれ!!、ってな。」
自分の感情を沈める事には慣れている。店主に笑顔を返し、私はその場を後にした。

いまだにこみ上げて止まらない笑いを押し殺し、人の流れに身を任した。
正義の国?このフィガロが?
帝国が滅び、世界最高レベルとなった機械技術を持つフィガロ。そして、その象徴である先端技術の結晶とも言うべきフィガロ城。世界を救った英雄が治めし正義の国と讃えられ、国民はフィガロ王家を敬い、慕い、憧れ、自分がフィガロ国民である事を誇りとする。その栄光の代償となって人がいることなど考えもせずに・・・

「ふっ・・・ふふ・・・」

笑い出しそうになるのを、唇をかみ締めてこらえる。今に始まったことではない、昔からの事だ。今更このフィガロに何か期待する方がおかしいのだ。時代を超え世代を超えて受け継がれたこの体に流れる血は、フィガロを憎む血だ。長い間待ち続けてきた機会が、ようやく訪れた。決して気づかれてはならない、ミスをしてはならない、例えこの体が絶え、血が滅びようとも、目的さえ達せられるならば構わない。
つかの間の平和を味わえばいい。このフィガロに、大いなる災いがもたらされるその日は近いのだから。
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