鋼の錬金術師

□二つの野望
1ページ/5ページ

「親睦会〜?」
照りつける太陽の光を一筋ももらすまいと、木々が背伸びをするように枝を空に向かって伸ばしているある夏の日のこと。東方司令部司令官の部屋で明らかに不満そうなエドワードの声が響いた。
背中に垂れる三つ編みが窓から差し込む日の光を受けて金色に輝く。彼は、一目見れば可愛らしい男の子。だが、一面に紋章の描かれた赤いコート、使い込んでいるトランクケース、両手にはめられた白い手袋、それらは彼が普通の少年ではない事を物語っている。
エドは、上司であるロイの部屋のソファにどっかりと座り、その部屋の主に口を尖らせていた。
毎度の事に注意する気もとうに果てているロイは別に気にする事もなく、執務机から白い封筒を取り出した。
「欠席する事は許されんぞ。招待主が招待主だからな。」
封筒をエドに手渡すロイの眉が微かにひそんでいる。エドに伝えているロイ自身、あまり気持ちの良いものではないらしい。

その親睦会は国家錬金術師の夏の恒例となっている、とロイがエドに軽く説明した。
アメストリス中の国家錬金術師が集い、近況を報告しあうのだという。その話を聞きながら、エドは封筒に目を向けた。白い封筒の表には、エドの銘と名前が書かれていた。何気なく封筒を裏返し、そこでエドの手が止まる。
「・・・・おい、まさかその招待主って」
聞かなくても分かっている。封筒の封蝋の印は、ズボンのポケットに入っている銀時計にも描かれている。
――六芒星に獅子を象った紋章

「大総統だ。」
今度はあからさまに嫌そうな顔をするロイ。
「会場にいるのはホムンクルスだったりして。」
「その可能性も否定できんな。」
「おいおい」
「だが何かあるとすれば、アルフォンスも呼ばれるはずだ。招待状は2枚。」
ロイの指先にエドの手元にあるのと同じ封筒が挟まれている。

大総統達、ホムンクルス達とその親玉が『人柱』と呼ぶのは、今知る限りではエドワード・エルリックとロイ・マスタング、そしてアルフォンス・エルリックの3人のみ。
何が目的なのかはまだ不明だが、あれほど冷徹に行動する彼らが、『人柱』である3人を守ろうとする。その『人柱』に一人でも呼ばない者がいる、となれば・・・
「ただのパーティー、か?」
「いずれにしても、軍属である以上、大総統の命に逆らう事は出来ない。出席するしかないだろう。」

「軍の狗・・・・か。せいぜい吼えてやるさ。」
「行儀の悪い狗は保健所行きになるぞ。」
「分かってる。」
いまだに納得していないエドの目つきは険しい。だが、ロイの表情も決して和らいではいなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ