鋼の錬金術師

□待ち人と探し人
1ページ/1ページ

いつも通りの昼だった。
いつもより変わっているとすれば、外の雪が少しばかり強かったというところか。
見回りを追え、少し早めに小屋へ戻ると、小屋の前に一人の少年が立っていた。
金髪で、なにより赤いコートの背中一面に描かれたマーク。見間違えるわけのない、自分が目をかけていた少年のフランメルのマークだ。

「鋼の?!」

少年は振り返った。
金の瞳を持つその少年は、自分を見てにっこりと笑った。

「やはり、エドワード・エルリックの事を覚えていらっしゃるんですね。マスタングさん」
「小さい男だったが、存在感だけは大きな奴だったからな。」

鋼のならば、途端に掴みかかってくるはずだ。上官などの立場を全く気にしない男だったから。
だが、これは確認の意味しか持たなかった。鋼のではないことは先ほどの笑みで分かっていたからだ。
そして同時に、目の前にしている少年が誰であるかもすぐに分かった。


「入りたまえ、アルフォンス君」
「え? どうして、僕の事」
「知らなかったのか?『鋼の錬金術師』の名と同じくらい、『エルリック兄弟』の名も知られている。」

いまだ不思議そうな顔をしているアルフォンスに、笑みが浮かぶ。分からないわけがない。さ、と促すと、アルフォンスは小さくお辞儀をして小屋へと入ってきた。
声だけではなく、礼儀正しいところは、鎧だった頃から何も変わっていない。

「粗末な小屋だが、適当にかけてくれ。今、お茶を入れる。」
「あ、お気になさらないで下さい。僕は、ただマスタングさんにお聞きしたい事があるだけで。」
「私に?」

紅茶のポットにお湯を注ぎながら、アルフォンスの話に内心首をかしげた。
「セントラルの奴らはどうした?あいつらも私と同じくらい鋼ののことを知っていると思うが。」
「あぁ、はい、セントラルの皆さんはお忙しい中、とても丁寧に対応してくれました。・・・・長い間お邪魔してしまって、ホークアイさんにご迷惑をかけてしまいました。」
あはは、と困ったように笑うアルフォンスを見て、自然と笑みが浮かぶ。
アルフォンスの体が元に戻ったときに、お祝いと称してバカ騒ぎをしたあいつらだ。めぐってきた機会を利用して、過剰に接触したんだろう。
その時にセントラルの休憩室に銃弾がいくつ放たれたのかは、想像するだけ無駄というものだ。

「みなさん、エドワードの事を」
「気にする事はない。いつも通りに話してくれて構わん。」
「はい、・・・兄さんに良くして下さっていたみたいで、とても嬉しかったです。ただ・・・僕は真実が知りたい。」

何を指しているのか、分からないではなかった。
おそらく、この北の果てまで来たのも、それを知りたいからなのだろう。


「なぜ、鋼のが消えたか。その理由か?」
アルフォンスはこくりとうなずいた。
「何故私に尋ねる?」
「あなたは以前、兄さんと僕が・・・・・禁忌を破った時に国家錬金術師となるように勧めたと聞きました。
傷ついた兄さんを前へ歩かせた人物なら、きっと話してくださると思って。」
「ならば、こうは思わなかったのか?私が自分の望みを叶える為ならば他の人を踏み台にしても構わない人間だと。」
「あなたが今ここにいる。それが、あなたが兄さんと関わった証であり、兄さんがいない事に心を痛めている証です。」

面白い奴だ、さすが鋼のの弟。

「俺は優しくない。 お前が傷ついてもフォローはしないぞ。」
「いりません。自分の事ですから、逃げられません。」

まったく、あいつと同じだな。
強情で、我が強くて。

私はここを離れられない。
軍属の人間として、ここで働くことを望んだからだ。

「ならば話そう。鋼のと、俺が最後に会った時のこと。あいつから聞いた、全ての事を。」

お前も、前を向いて歩く事ができるから。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ