夢小説【短編】
□貴方がいてくれるから
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「驚いた、来るなら言ってくれれば会社まで迎えに行ったのに」
「うん…でも寝てたら悪いなと思って」
「今更変な気を遣わなくて良い、ほら、早く入れ」
そうやって中へと通されれば、
室内はいつも通り綺麗に片付いていて埃一つ落ちていない。
羽鳥は私よりも忙しい筈なのに、一体いつ片づけているのだろう…。
そんな事を思いながら一歩リビングへと足を踏み入れれば、食欲をそそる良い匂いが広がっていた。
「シチューを作ったからなまえの家に持って行こうと思っていたんだ。丁度良かった」
「わぁ!やった!トリの作るシチュー大好き!」
嬉しくて羽鳥に笑顔を向ければ、羽鳥は優しく微笑んで私の頭に手を置き、
ゆっくりと撫でた。
「なまえが好きだろうと思って作ったんだ。最近また痩せたみたいだし、余り無理するなよ?」
「え?私の為にわざわざ作ってくれたの?…ありがとう」
少し驚いて羽鳥を見れば、心配そうな表情でこちらを見ている。
その切なげな瞳にズキリと胸が痛んだ。
「本当に毎日遅く迄仕事して…なまえがいつか倒れるんじゃないかと心配だ」
「そんな、大袈裟だよ」
余りにも真剣な表情の羽鳥に、場を和ませようと笑いながらそう言えば、
次の瞬間には強い力で肩を抱かれ、私は羽鳥の腕の中に納められた。
そして羽鳥は私の耳元で囁くように言葉を発する。
「なぁなまえ。仕事が辛いなら、そんなに頑張らなくて良いんだぞ」
「トリ…?」
思いも寄らない羽鳥の言葉にたじろいでいると、羽鳥は私の額にキスを一つ落とした。
「お前はもう…十分頑張ったじゃないか」
その言葉を聞いた瞬間、一気に目の奥が熱くなって
箍が外れたように大粒の涙が次々と溢れてくる。
― そうか…ちゃんと私の事を見てくれて、
ちゃんと頑張りを認めてくれる人が、私には居たんだ…−
分かってくれる人が居るというだけで、何て心強いんだろう。
「心配しなくても、お前は俺が養ってやる」そう言う羽鳥にプロポーズみたいだねと涙を拭い笑いながら言えば、
羽鳥は顔を少し赤くして私を更に抱きしめてくれた。
有難う羽鳥。
貴方がいてくれるから、
私はまだ頑張れるよ。