CP小説

□想い出涙
1ページ/3ページ



校了明けの日曜日、溜まっていた家事を終わらせれば夕方になってしまったけれど
折角の休日を外出せずに終わらせるのは物悲しく、俺は近所にある図書館に来ていた。

ここには本当に沢山の蔵書がある。
絶版になった本から最新人気小説まで、その種類は幅広い。
そんな沢山の本が並べられた本棚を見渡すだけで、とても幸せな気分になれる。

けれど幸せな気分になると同時に、10年前のあの頃の事を思い出してしまった。
オレンジ色の夕日が差し込む中、閉館ギリギリまで図書室で過ごした、先輩との日々を…。




想い出涙





(って…何考えてるんだ)

そんな風に幾度となく自分を戒めて来たが、
高野さんと再会してからは特に昔の事を思い出す。
修羅場中に気絶すると夢に見たり、こうやって不意に思い出したり…
本当に、人の中に勝手に入り込んで来ないで欲しい。

(あぁもう、さっさと借りて帰ろう。これ以上あの人を思い出すのは嫌だ…)

いつまでも過去に囚われている自分に嫌気が刺し、
俺は一番上の棚にある目当ての本に手を伸ばした。

(う…届かない…)

背伸びをしてみても後数センチの所で届かない。
成人男性が手を伸ばしても届かない様な所に本を並べないで欲しいとも思ったが、
この蔵書の数ではそれも仕方がないのかもしれない。
台を借りに行こうと諦めかけたその時、
横から伸びてきた自分よりも大きな手が簡単に目当ての本を抜き取る。

「これ?」

「あっ、はい。ありがとうございます」

優しい人も居るものだ、俺は御礼を言う為に
相手の方に向き直って笑顔で本を取ってくれた人を見た。

その人は、黒い髪のスラリとした長身で…黒縁…眼鏡…
俺の笑顔は瞬時に凍りつく。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ