CP小説
□これも愛情表現
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真っ白なネーム用の紙に向かって
俺は頭を抱え込んでいた。
「おい吉野、ネームはまだ出来ないのか?今日が期限だぞ」
「仕方ねーだろ!いくら考えたってネタが出ない物は出ないんだ!もう放っておいてくれよ!」
相当煮詰まっている所に催促をされ、
半ば逆切れ…と言った感じで俺は目の前の羽鳥に向かって言葉を荒げた。
流石にそれがカンに触ったのか、
羽鳥は眉間の皺を更に深くして俺を睨み付けながら口を開く
「何を威張って言ってるんだ。お前の漫画だろう、放っておいて困るのはお前の筈だが?」
「う…」
ネタが出ないのは確かに自分のせいではあるが、
本当にいくら考えてもネタが出ない物は出ないのだ。
羽鳥に八つ当たりしてしまって申し訳なく思いつつも
俺はもうどうする事も出来なかった。
「トリ・・・」
取り合えず今の暴言を謝ろうと羽鳥の方に向き直れば
羽鳥の携帯から着信音が鳴り、言葉を遮られてしまった。
「はい。あぁ佐藤先生、どうされましたか?」
眉間に皺を寄せたまま電話に出た羽鳥だったが、
相手が担当の漫画家だと分かると、一瞬にして優しい声色に変わった
耳に響く余所行きの声。俺にはそんな声で話さない癖に…
そんな風に苛立ちながらも話を盗み聞きしていると
羽鳥は信じられない一言を放った。
「佐藤先生なら大丈夫ですよ。えぇ、まだネームは待てますから、明日また一緒に考えましょう。では失礼します。」
『ピッ』と何食わぬ表情で電話を切った羽鳥に向かって、
俺は声を荒げて羽鳥に猛抗議した。
「おいこらちょっと待て!!!何で佐藤先生のネームは待てて俺のネームは待てないんだよ!?しかもその態度の差は何だ!!」
「お前は作画のペースにムラがあるが、佐藤先生は作画のペースも速いし安定している。だからだ。」
的確な事を言われてしまい思わずぐっと声を呑む。
それを聞けば確かに…と納得できそうな物だが、
それでも尚、俺の中の苛立ちは消えなかった。
もやもやとした感情で、心の中が一杯になっていく。
「全く…くだらない事を言ってないでさっさとネームを書け」
呆れた表情でため息を吐く羽鳥にズキリと胸の奥が痛む
冷たい…
あぁ。きっとそうなんだ…。
「何だよ…なんでそんなに俺には冷たいんだよ」
「吉野…?」
俺は、佐藤先生に嫉妬してるんだ――。
溢れてくる涙を見せないように俯けば、
ポタリと雫が手の甲へと落ちた。
(馬鹿だ俺は…こんな事くらいで…)
もういい歳だというのに情けないと思いながらも涙は一向に止まってくれない
恥ずかしさと悲しさで押しつぶされそうになりながら手で涙を拭おうとすれば
それよりも先に瞼にキスを落とされ、涙を吸われた。
「なっ…トリ!?」
突然の事に驚いて目を見開けば、
羽鳥は尚も優しいキスを顔中に降らせて来た
「冷たい訳じゃない。お前の漫画は絶対に妥協したくないだけだ」
トリ…」
その言葉にジンと胸が熱くなる
そこまで俺の事を考えてくれていたのかと嬉しくなって
羽鳥の逞しい胸へと抱きつけば、羽鳥は優しく抱きしめ返してくれる。
「だから頑張ってくれないか?」
「ん…」
じわじわと熱くなる顔を隠しながら小さく返事をすれば
羽鳥は俺の唇に自分の唇を重ねて来た。
羽鳥の為にも…ちゃんと頑張ろう
でも今はもう少しだけ
このままでいたいんだ…。
柔らかい唇の感触に胸の鼓動を早くさせながら。
俺は暫くの間、羽鳥に身を任せたのだった。