CP小説

□嬉しいと思ってしまうなんて
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夜23時。同じフロアの社員のほとんどが帰宅して、
エメラルド編集部も俺と高野さんと木佐さんだけが残っているだけだ。
そろそろ終電なので俺ももう帰ろうかと思い始めた頃、
高野さんが気怠そうに書類を見ながら言葉を発した。

「ったく、さっき営業に行ったばっかりだって言うのにまた持っていく書類が出て来た」
「確かに、階が違うから書類を持って行くだけでかなり手間になりますよね」

自分も先ほどから何度も各部署に書類を運んでいて、
やっと自分の席に着いた所だったので同調する。
急を要さない書類ならまとめて持って行けば良いけれど、
そうでない書類の場合はどうしても何度も足を運ぶ事になってしまうのだ。

「もう各部署に管が通っててさ、それに入れたら自動で運ばれるヤツがあったら良いと思わねぇ?ほら、ちょっと前にラブホに良くあった…」
「エアーシューターみたいな?」
「そうそれ」
さらりと木佐さんが言い放ったが、
もう帰り間際とは云え仕事中にする話題では無いだろう。
どうにもこういう話は苦手なので、黙って過ごす事にしたのだが。

「小野寺、お前知ってるか?ラブホのエアーシューター」

…やっぱり絡んで来た。

これはもうセクハラで訴えても良いのでは無いだろうか。
だが此処で「知りません」などと言おう物なら全力で馬鹿にしてくるに違いない。
そう悟った俺は高野さんを睨み返しながら答えた。

「知ってますよそれくらい…清算する時のでしょう」
「…当たり。おい小野寺、ちょっと用があるからお前このまま残ってろ」
「え!?でももう終電が!」
「上司命令」

部下として逆らえない言葉をさらりと放てば、
高野さんはひらひらと書類を揺らしながらフロアから出て行った。
…こんな人気の無いフロアに二人きりなんてどうしても避けたい。
頼みの綱の木佐さんの方を振り返れば、
木佐さんはいつの間にかコートを着て帰り支度を済ませていた。

「俺これからデートなんだ!ごめんね律っちゃん!俺先に帰るから!」
「お…お疲れ様です」

これからデートだという人を足止めする訳にも行かず、
俺は眩しい程の笑顔で手を振る木佐さんを見送った。

(っていうか木佐さん彼女居たんだ…)
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