BLUE ROSE 2
□42. 7月 とある日曜日
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蒸し暑い日本の夏が本格的にやってきた。
日中30度超えは当たり前で、その上、日本特有のジメジメとした湿度も相まって体感温度は天気予報のそれ以上だ。
そんな中、跡部邸の屋外プールは笑い声が響き渡っていた。
「おーい!苗字!」
「わ!」
「へへーん!命中したぜー!」
「岳人、水鉄砲かて名前ちゃんの顔は遠慮せな…うっ!!」
「ふふ、クリーンヒットですね」
「…戦争や!もう遠慮はせぇへんで!」
水しぶきが飛び交い、プールサイドまでびしょ濡れだ。
それほど大盛り上がりしているわけで、彼らにはこの炎天下は関係ないようだった。
「お前らどんだけテンション高いんだよ…」
プールには入らず、私服のままそばのカウチソファに座って、跡部はずっと様子を見ていた。
今日は特に猛暑日で、午後からは外でテニスをするにはあまりにも酷すぎる暑さとなった。
氷帝は室内練習場もあるので、そこで練習をすることも出来るが、最近の猛暑で部員が疲れているのと、関東大会が近いことから、跡部は午後からの練習を無くして自由行動にすることにした。
そう部員たちに告げると、忍足と向日が飛んで来てこう言った。
「跡部ん家のプールで遊びたい!」
こうして今、忍足と向日がここに来ているのだが、二人がプールで遊ぶと聞いて、名前も仲間に入れてと喜んで飛び込んできたのだ。
それ以来3人は飽きもせずずっとプールではしゃいでいる。
確かにこの暑さではプールはちょうどいい気持ちになるだろうが、せっかく休養を与えたのに忍足と向日が疲れこんでしまわないかを心配した。
「景吾さんも一緒に遊びましょ?」
名前がプール内から跡部に声をかける。
髪の毛からポタポタと水滴が滴り落ちて、存分にプールを楽しんでいるのが分かるほどだ。
「俺様はいい。ここでお前らの行動でも眺めてるさ」
そう言って、パイナップルがグラスに刺さった南国ジュースを飲んだ。
一人だけリゾート地のような振る舞いだ。
「えー、なら私も少し休憩しよっと」
そう言って名前はプールから上がって、跡部の隣のカウチソファーに座った。
見計らって、使用人が同じ南国ジュースをパラソルテーブルに置いてくれる。
「…ったく、そんな格好で居るんじゃねぇよ」
名前が水着のままジュースを飲む姿にいたたまれなくなり、近くにかけてあったバスローブを名前の脚に投げた。
「これ着てろ。脚と胸を見せすぎだ」
「またすぐプール入りますからいいです」
「いいから着ろ。こっちの身にもなれっての」
小言を言いながらバスローブ着用を強制して、名前は渋々とそれに袖を通した。
「跡部がこないに、女の子の水着姿に照れるとはなぁ。跡部も人の子やったんやね」
プールの縁に立て肘つけて、忍足はニヤニヤしながら名前と跡部のやりとりを見ていた。
跡部はムッとする。
「第一お前らがウチで泳ぎたいって言うから名前も来ちまったじゃねぇか」
「えー俺らのせいなん?」
「私が泳ぎたかっただけですよ」
「名前ちゃんは優しいなぁ。ほら、はよプールに戻っておいで」
「オイ」
目を釣り上げて、忍足を睨みつけた。
「でも今日午後も本当は部活あったんですよね?」
「ああ、だがこの炎天下では流石にな」
「ほんま助かったわぁ。室内練習場もあるけどそれでも暑いやん。こういう日は涼しいことして身体休めるんが1番」
「明日はみっちり、その室内練習場で練習だがな」
「えー」
「お前ら関東大会近いの分かってんのかよ…」
忍足と向日の反応を見て、跡部は呆れた顔をした。
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夕方になり、昼間と比べたらかなり涼しくなった。
日中遊び尽くした忍足たちも、流石に遊び疲れて帰る手筈を整えた。
私服に着替えて荷物を肩にかける。
「はー、めちゃくちゃ面白かったな!またプール入りに来てやるよ!」
「なんで上から目線なんだよ」
「テニスとは違う体力使ったで今日はぐっすりやな」
「明日は暑かろうが練習だからな。しっかり寝て身体休めろよ」
「遠足後の先生だ」
プールサイドでワイワイと話して、忍足たちは玄関へ向かうため、振り返って名前にも挨拶をする。
「名前ちゃんも、また明日ね…」
「…」
「…」
見てみると、カウチソファーに座っていた名前は静かに眠っていた。
風に吹かれて髪の毛がふわりとそよいでいる。
「ジローみたいだな」
「まぁまぁ、名前ちゃんも随分はしゃいでたし眠なるわ」
「はぁ…」
ひとつため息を吐いて、跡部は忍足たちを帰らせるように玄関へ向かわせた。
「まあ名前のことは後で俺が何とかする。お前らには車出すから」
「やった!じゃーな跡部」
「また明日な」
「ああ」
使用人が忍足たちを案内して、玄関前につけてあるであろう車まで向かわせた。
さっきまで騒がしかったこのプールサイドが、一気に静けさを取り戻した。
涼しくなった夕方の風が心地良い。
名前もまた、気持ち良さそうに眠りについていた。
「…名前、こんなとこで寝てたら風邪引く」
「ん…」
ゆさゆさと名前の身体を揺すったが、相当眠たいようで、ゴロンと寝返りをうっただけだった。
ジロー並みの熟睡に跡部は微かに笑った。
「お嬢様をお部屋に運びましょうか?」
「いい、俺が連れてくから」
側にいた使用人が手を貸してくれそうだったが、水着にバスローブを着ただけの名前に使用人でも触れてほしくなくて、跡部は名前を横抱きにして室内へと入っていった。
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