BLUE ROSE 2
□43. 7月 関東大会
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朝からずっと寝ていたが、名前はふと目が覚めた。
身体は朝よりだるく、もしかしたら熱が上がっているかもしれない。
(…今何時?)
重たい身体をベッドに預けたまま、テーブルに置いてある時計をうつろな視界でとらえた。
すると昼をとっくに過ぎて、早くも夕方に突入している。
随分と寝続けたものだと驚いたが、それでもまだ熱は下がってくれなかった。
(景吾さん、帰ってきたかな…)
明日が大切な関東大会なので、身体を休めるため早々に切り上げて帰宅するのは分かっているが、こんな体調の自分が会うべきではないことも分かっていた。
(喉乾いた…)
ゆっくりと上体を起こしてサイドテーブルに置いてもらった水の入ったデカンタを手に取ろうとしたところ、部屋のドアが控えめな音を立ててゆっくりと開いた。
「え…」
「なんだ。起きてたか」
部屋に入ってきたのは跡部だった。
確かに夕方なので、もう家に帰っている時間ではあるが、朝突き放したばかりだったのに、まさかまた部屋に来るとは。
「な、なんでまた来たんですか。今日は近づいたらダメって…」
「あーん?俺様がそんなに病弱な男だと思ってんのか?」
そう言って、跡部は両手で持っていたトレイをサイドテーブルに置いた。
それの上にはポットとカップが乗っている。
「ま、俺も偉そうに言ってるが、前に俺も高熱出したしな。水飲もうとしてたんだろ?取ってやるよ」
跡部は代わりに水を汲んでくれて、名前に手渡した。
お礼を言って水を飲むと、少しだけ体温が和らいだ気がする。
それを見届けた後、今度は持ってきたカップにポットから何やら注いだ。
「ハーブティーだ。調合してもらったから回復の助けになると思うぜ」
「…」
「どうした。ハーブティーは嫌いか?」
カップを差し出す跡部の顔を、名前はジッと見つめた。
「いえ、そうじゃなくって…。景吾さん、冗談抜きでうつったら大変ですよ。私は大丈夫ですから」
「大丈夫な顔色じゃねぇだろ」
「でも、お医者さんも診てくれますから、景吾さんは明日のためにも、私に構うのはやめてくだ…」
「屁理屈言う前にとりあえず飲め」
無理やりハーブティーを手渡してそれを飲ませた。
どんなハーブが入っているかは言わなかったが、サッパリと涼やかな気分になる味だ。
「ご馳走さまでした。美味しかったです」
「よかった。欲しかったらまだポットに入ってるからな」
名前からカップを受け取ってトレイに返す。
そしてベッドに座り、名前の頭をポンポンと撫でながら口を開いた。
「明日、俺達は青学と戦う」
「…はい」
「順当に行けば、手塚と戦うことになるだろう」
「はい」
小さく頷きながら跡部の言葉を聞いていく。
試合前に対戦相手のことを名前に話すとは、跡部が明日の試合にかなりの覚悟を持っているのが伺えた。
それに、相手が手塚だということもあるから。
「俺は勝つ」
「はい、景吾さんは勝ちます」
「よし」
満足げな表情をして、再び頭を撫でた。
「明日までに、熱下げます。試合観に行きたいです」
「バーカ。触っただけで相当熱高いのが分かるほどだぜ。明日までになんて、無理すんじゃねぇよ。ゆっくり休めばいい」
「…」
「そんな顔するな」
名前を少し引き寄せて、おでこにキスをする。
「ちょっ、景吾さん…!私風邪なのに…!」
「だからだ。本当はもっと触れたいしキスもしたい。今だって相当我慢してる」
「っ」
「…だから、しっかり治して、勝った後にでも俺にキスして祝ってくれ」
見つめ合う瞳は僅かに揺らいで熱を帯びている。
名前はぽすん、と跡部の胸に頭を預けた。
「…やっぱり早く治します」
「なら、今日はとにかく寝とけ」
名前の肩を持って横たわらせる。
毛布を肩までかぶせて、最後に髪を撫でた。
「何か必要な物があったらすぐに言えよ」
「はい。景吾さんありがとう」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい 」
そうして跡部は静かに部屋から出ていった。
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